2、暴力を防ぐ術
暴力を防ぐためにはどうすればいいか。部下を殴ると、「自分は損をする」「反撃を受ける」と上司が判断させるようにするべきなのだ。たとえば、社長や役員、人事部や総務部は機会あるごとに、全社員に向けて暴力を固く禁じることを説明する。役員会や管理職会議でも繰り返し説明する。暴力をふるった上司がいるならば、処分のうえ、社内のイントラなどに一定期間、掲示する。
本来、「コンプライアンス」を掲げるならばこのくらいのことはするべきなのだが、ほとんどの会社はしていない。結局、部下は自分の身を自分で守り抜くことになる。私の経験で言えば、最も効果があるのは、ふだんから、上司への質問だ。質問攻めにするのだ。たとえば、「それは、どういう意味ですか」「さきほどの説明と違うような気がしますが…」などを皆に聞こえるように繰り返す。上司は、うるさい部下の人事評価を低く扱うことはしても、殴る可能性は低い。皆の前で反撃を受けるかもしれない、と感じ取らせるようにするのだ。
さらに言えば、そのような上司とは深入りをしないこと。心を許すと、勘違いをする。その優柔不断な姿勢が、上司に間違ったメッセージを送る。暴力という許されない行為をしているのだから、「上司だから…」と敬う必要もない。軽蔑の対象でしかない。
私は会社員の頃、上司から殴られそうになったことがある。納得できなかったので会議室に上司を呼び、話し合いを求めたが、拒まれた。口頭とメールで、30回ほど催促したが、回答がなかった。社内の労働組合と人事部に話をもっていった。上司と親しい管理職にも、暴力をふるわれそうになったことを話した。50~60人の社員にも同じ内容のことを説明した。
上司とはそれ以降、口をきかなかった。挨拶もしなかった。その後、人事異動で他部署へ追い出された。離れるとき、「(自分を殴ろうとしたことの)清算をしたい」と話し合いを求めたが、実現はしなかった。聞くところによると、上司はほかの部下を時々、殴っていたようだ。その部下たちはご機嫌をとっていた。上司は調子に乗って、殴ることを繰り返していたという。弱腰で対処するから、本人は暴力をふるうのだ。
暴力をふるう者は、冷静である。損得を考え、合理的に判断し、殴る。そのことを踏まえ、暴力をふるうと厄介なことになると思わせるようにしたい。最も大切であるのは、泣き寝入りをしないこと。部下たちは徹底して激しく抵抗をすることで、自らの人権を守り抜きたい。会社が何もしない場合は仕方がないのではないだろうか。
文/吉田典史