「記事としては面白かったが……」
通販生活では、一つの商品を1〜2ページでじっくりと紹介します。一冊につき60ほどのアイテムが登場しますが、新商品より売れ筋商品の紹介が多い。遠赤ヒーターもその一つで、次の号では切り口を少し変えてみよう。おばあちゃんとお孫さんの間の小さな子供がいるお母さんに、アピールする記事は作れないかと。
「遠赤ヒーターの開発の話は面白いですよ」
「なるほど、開発秘話か……」開発秘話は一般誌でも、興味を抱くところでしょう。
記事はまず、遠赤ヒーターの開発者に登場してもらい、わかりやすく開発の秘話を語ってもらって。後半で実際に使っている30代の主婦のコメントを紹介。ひなたぼっこをする猫と、ヒーターを背景に主婦と子供たちが、くつろぐ写真を掲載して。開発秘話は“情”も絡んだ“知”のエピソードです。記事の後半は“情”を意識してまとめました。
ところが蓋を開けてみると、遠赤ヒーターの売上げは芳しくなかった。
「記事としては面白かったが、商品を買うとなるとターゲットが違っていたのかな」
「60〜70代の読者は、開発秘話に興味がなかったんだろう」等、反省会では意見が尽きませんでした。記事に対する“知”と“情”のバランス、一つの商品への読者の興味の抱き方に、いかに刺さるか、毎回考えさせられます。
通販生活の編集作業を通して、誠意を伝える難しさも実感しました。本誌では毎回、ユーザーの使用感のインタビュー記事を掲載していますが、アポ取りと言って、この企画の取材の承諾をいただくのが難しい。
商品を購入された方のアンケートハガキは、データベース化されていますから、そこからピックアップする形で、アポ取りの電話をします。しかし、「プロのカメラマンと僕とでお宅にお伺いし、取材をさせていただけませんか」と、お願いしても7〜8割の方が「それは困ります、嫌です」と。
発行部数が100万部を超える通販生活に、自分が実名で載ることには、やはり抵抗があるのでしょう。ある時、中腰の姿勢で座りやすく、手すりが付いていて立ちやすい、キャスパーチェアという商品の記事を書くために取材をすることになって。
僕の目に止まったのは、70代の女性のアンケートのハガキでした。この方は腰に持病があって、床に座るのがきつい、いろんな椅子を試してみたがダメだった。ところがこの椅子にしたら、テレビを何時間見ても腰が痛くならないし、立つ時も楽だと。
早速、岡山市在住のこの方にアポ取りの電話を入れたのですが、案の定「取材は困ります」と、断られまして…。
でもいいお話だ。この方を誌面で紹介できれば、多くの読者の共感を得られるに違いない。是非とも登場していただきたい。
取材の協力を得るためには、まず僕という人間を信用してもらわなければなりません。そのためには、いったいどうしたらいいのかーー。
自分を取材対象者に信用してもらうために、市川さんは誠意を示すある方法を考えつく。今やその方法は通販生活編集部内での常套手段となりつつあるのだが、どんな方法なのだろうか。その詳細は後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama