さて16年3月のさる日、「eBay」にブルートライアングルが3点出品されていた。いずれも現在価格は約1万円、コンディションはジャケット・レコードともにEXだ。となると入札が分散して、意外に安く落札できるのではと推測した。そこでそれぞれに202ドルを入札し、その時点での最高価格入札者となった。が数日後の日曜日夜8時、「eBay」を見るとどれも$202を超えている。落札締め切りは3点とも翌日の早朝4時前後、とてもそこまで起きていられない。さて、どうしよう。3点ともEXながら、商品説明を読んでこれがベストと思えた出品に303ドルを入れて、再び最高入札者となった。この時、僕は結構酔っていた。
翌朝、早速パソコンを立ち上げる。やった! 落札! と喜ぶも、落札価格は6万円強? そんな馬鹿な??? 「eBay」のあちこちをクリックして真相判明。酔った僕は303ドルではなく、3003ドル入れていたのだ。もし大金持ちと競っていたら大変なことに! 酔って入札、絶対にやってはいけません。
不覚にも、6万円払ってまで欲しかったわけではない『狂気』を落札してしまった。こうなったらポジティブ・シンキング、これが極上の『狂気』であることに期待し、わが愚行・酔行を正当化しよう。そして競売の女神は微笑んだ。ジャケットはこれぞblue tink、付属のポスターとカードのコンディションも上々。チリも圧倒的に少なく、録音も鮮烈。リアル店なら10万円クラスを6万円で買えた。なんてお買い物上手な私! と思い込む。
blue tinkのUKマト1(左)と、真っ黒のUSマト1。画像でもその差はわかるのでは。
こんなモノにお金を使ってと顰蹙を買いそうな趣味だが、僕は意外と有利な投資になると思っている。今リアル店舗にて5万円で買った中古レコードを、1年後に買取に出しても半額くらいだろうが(それでも買値の半額で売れる商品は希だ)、10年後20年ならどうだろう。マト1は二度と生産できない。その数もオーナーの死とともに減っていくことはあっても、デッドストックが日の目を見て出回るなんて可能性は極めて低い。貴重なマト1ほど、この先値上がりしていくのではないだろうか。
実例を挙げよう。僕が15年11月に「eBay」で約8500円にて落札した『レッド・ツェッペリンⅡ』のUSマト1、最強の爆音とされるRLカットは、現在の市場価格が4万円ほどだ。買取に出しても2万円くらいにはなると思う。これが20年経ったら?
レーベル外側10時の位置に刻まれた文字がRLで、カッティングエンジニア、ロバート・ラディックのイニシャル。
ただし、これはしかるべきところに売ってのこと。僕の会社時代の後輩はクラシックレコードのコレクターで、家に高く売れるレコードコーナーを設け、お子さんにお父さんが死んだら捨てずに必ず売るようにと伝えているという。僕も家族に、死んだときは所蔵のレコードはゴミとせず「ディスクユニオン」という中古レコード店に売るようにと、きちんと(?)伝えてある。
いや、その前に老人ホームに入るための頭金に化けてしまうかな? 老人ホームではボリューム上げてロックなんか聴けませんから。
文/斎藤好一(元DIME編集長)。