■最長は5時間の披露宴
キャプテンは披露宴の終了時間にも、気を配らなくてはいけません。披露宴の時間はだいたい2時間半ですが、キャプテンにも慣れてきた頃のことです。僕が受け持った披露宴で、通常の時間よりもさらに2時間半も押してしまい、5時間かかったことがありました。
いつも通りはじまった披露宴でしたが、めでたい席ですからゲストの方から、「まあ一杯」とお酒を勧められて。新郎はお酒に弱かったのでしょう。お色直しの着替えに新郎新婦が席を立ち、再入場する時に新郎が扉の前で完全に動けなくなってしまった。さらにぐーぐーとイビキをかき出はじめたんです。新婦は泣き出してしまうし、いったいどうしていいのか僕もあわてた。
椅子を持ってきて、扉の前で酔いつぶれ寝入っている新郎を座らせて。「新郎は入場できません」僕の言葉に、駆け付けた僕の上司のリーダーが、助け舟を出してくれました。
「もう一つの扉から、新婦とお父さんを入場させよう」司会者にも、「お父様がすごく大事にされていた新婦様ですから」と、新婦とお父さんが並んで会場に入場してくるシーンに、フォローの言葉を添えてもらって。「料理を先に出しましょう。食事の時間をゆっくりとって、食後のコーヒーもなるべくお替りしてもらうようにして」「その間に新郎の回復を待とう」
結局、最後の新婦の手紙を読むシーンでは新郎もなんとか回復。メインテーブルに二人並んで立ち、つつがなく終わりましたが、5時間の披露宴は後にも先にも、あれ一回きりです。通常は複数の披露宴が入っていて、長時間は不可能なのですが、この時はたまたま後ろに、宴会がなかったので助かりました。
「中尾くん、キミ、プランナーに合いそうだね」と、入社当時から上司に言われていました。プランナーへの配転は、キャプテンの仕事が軌道に乗った入社1年後でした。配属が決まり、福岡から今のラグナヴェール トウキョウに転勤になりまして。東京駅に近いこの結婚式場は、会社では“八重洲”と呼ばれていて結婚式の数が一番多い。
「止めとけ、大変だぞ」先輩たちには口を揃えてそう言われたのですが、僕はいいチャンスだと思ったんです。ところが――
忙しいのはいいとして。どんな結婚式にするのか、主導権を握るのは新婦だ。新婦は式の内容についての相談相手として、同性を好む。そんな事情から結婚プランナーの8割は女性だ。その中に飛び込んだ中尾さん、結婚式の売上を伸ばすための孤軍奮闘ぶりは、並大抵ではなかったようである。
そのお話は後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama