あなたの知らない若手社員のホンネ~日本スピン・久保田佑輔さん(32才、入社5年目)~
若い世代の仕事への熱いマインド、中間管理職にとってそれを理解することが、彼らとの良好なコミュニケーションにつながる。若い人にとっては、同世代がどんな仕事に汗を流しているのか。興味のあるところだろう。この企画は入社3~5年の社員の話にじっくりと耳を傾け、そのモチベーションを紹介する。
第15回目は横浜に本社がある日本スピン株式会社は従業員60名ほどの会社だ。久保田佑輔さん(32才)、入社5年目。日本スピンはスピニングというへら絞り技術で、国産のH−ⅡAロケットの先端部の加工はじめ、航空機部品、半導体、医療機器などの主に精密機器の部品の製造を手がけるニッチトップ企業。久保田さんはへら絞りの職人である。
■不器用だと思い知らされました
藤沢市出身です。高校を卒業して電気関係の会社に就職して。主に配線の仕事をしていました。手がけたビルに照明が点灯した時はやりがいを感じましたが、一度仕事を覚えてしまうと、作業がいささか単純で。他にもっと、自分の可能性を試せるような仕事はないかなと。会社を辞めてハローワークに職探しに行くと、たまたま「へら絞り工見習い募集」というこの会社の求人が目に入ったんです。
へら絞りってなんだろう。YouTubeで検索してみると、機械に据え付けた金型を回転させ、もう一方から機械で金属板を金型に当てて、回転させながらへら棒という長い金属の棒で板を成形していく。
なんだ、回転する金型に板を当て金属棒で形を作っていくだけだ、簡単そうじゃないかと思ったんですよ。「明日から来てください」という感じで入社できましたが、実際に工場で絞りの作業をやってみると、これが難しい。削るのではなく、へら棒という金属棒を脇の下に挟み、テコの原理を応用して、回転する板に押し付け、金型にそって板を絞り成形していく。要は曲げた箇所と他の板厚が変わらないように、絞らなければならない。
例えば最初にやったのは、アルミの板をくの字に曲げるへら絞りでしたが、どうしても曲げたところは板が薄くなってしまう。美観も大切で表面が凸凹していたり、注文通りの寸法が出ていないと不良品となります。雄と雌の金型を取り付けたプレス機で、金属板をプレスしても同じ形のものは作れますが、板の厚さが薄かったり厚かったり。製品の板厚にムラができます。それを例えば高電圧が流れるシートカバーに使うと、薄い部分が溶けて故障や事故につながる恐れがある。うちが担うロケットの先端部も板厚が、薄かったり厚かったりムラがあれば強度が保てず、事故を起こす事態となるかもしれません。
へら絞りで作るうちの品物は1000種を優に超えますが、その多くは精密機械の部品として使われます。世間ではAIが話題ですが、最先端の機器にも職人が長年培った技術とカンで作るへら絞りに、頼っている部分がたくさんあるんです。
へら棒で回転する金属板に押し当て、成形する中で絞り方を間違いたり、何度も同じ失敗をして。へら絞りの職人は僕を含めて5人ですが、僕の面倒をよく見てくれる3、4才年上の上司は、「すぐにできたら苦労はいらないよ」と、修業を始めて最初の頃はほとんど怒られませんでしたが。僕は自分なりにかなり器用なほうだと思っていたんですよ。でもこの職場では不器用なほうだとつくづく思い知らされました。