■歯がゆい思い
東京支店に転勤になり、納豆の営業を担うようになったのは2年ほど前からです。これまでは食酢等の日持ちするドライ商品の担当でしたが、納豆は毎日製造して毎日出荷する、年中無休の商品です。うちのシェアは納豆全体から見ると2割ほどですが、膨大な数になります。納豆は特売品として人気のある商品の一つ。特売の時は基本的に通常の予定数量の倍以上、出荷します。
店舗側もメーカーになるべく負担をかけないよう、早めに特売のオーダーしてくれますが、それでも納豆の生産がひっ迫する時期がありまして。寒い時の鍋から、春の3月4月を迎えてご飯がおいしい。ご飯のお供の納豆も売り上げが伸びる。
「全国的にしっかりと出荷していきたいので、この時期の特売はちょっと、ご遠慮願えないかと」「えー、なんとかならないの?」
納豆の売り上げが伸びるこの時期に、スーパーは納豆を特売したい。生産から店頭に並ぶまでの時間が短い納豆は、生産工場との連動が大切です。工場側からは「もうちょっと見込みを精緻してほしい」と、やんわりと言われることもある。生産のキャパを考えて売っていかなければなりません。
「頑張りすぎるといずれ欠品を出して、ご迷惑をおかけすることも無きにしにあらずで、わかってください」「そこをなんとか!」そんなやり取りをすることも、間々ありまして。
営業ですから商品を売りたい気持ちは強い。売ってほしいと言ってもらっているのに、売れない。名古屋でのドライ商品の営業では経験しなかったことで、なんとも歯がゆい。でも、自分で作ったモノを売るのがメーカーですから、この歯がゆさもメーカーならではなのかなと。
売れている商品であっても、一個でも多くお客さんに買っていただくことが、お店にもうちにとっても大事なことです。うちの会社はメニュー提案型の営業に長けている。定期的に担当のお店を回っていますが今、納豆とサラダを夜食にする提案をしています。他にも豆腐と納豆を絡めたり、糖質コントロールのメニューが何種類かありまして。メニューの開発は担当者がいて、作り方や糖質の含有量を記したポップは、社内の企画の部署が制作しますが、時には私がパソコンで作ります。最近ではホウレンソウのゴマ納豆和えの作り方を記した手作りポップを、お店に置きました。
納豆の歴史や作り方などをお店の売り場等で、お客さんにプレゼンする時は、注目を集めるために縫いぐるみを被ったりして。「脚下照顧に基づく現状否定の実行」の企業理念は何とか実践できているかなと。
取材・文/根岸康雄