■「私おおざっぱで」本音がポロリ
もちろん、設計に計算は付きものです。今回の立体駐車場の案件は、鉄骨造と鉄骨鉄筋コンクリート造を組み合せた構造だったため、複雑で自動計算では対応できずに、ほとんど手計算でフォローしました。例えば補強材の取り付けに関してボルトは何本必要かとか、紙に手書きで強度計算をして、基準を満たしているかどうかの確認をしました。
補強設計は人の命に関わる仕事なので、計算のミスはあってはならない。「間違えるものだと思って取り組みなさい」と、先輩に諭されていましたから、「私はミスをする」と自分に言い聞かせ、最低でも2回は計算して数値をチェックしました。
それでも計算間違いはありまして……。
「すみません、失敗ばかり……」30代前半の先輩とご飯を食べた時に、そう言ったら励ましの言葉をもらいまして。
「私、性格がおおざっぱですから」思わずそんな本音が口を吐いた。すると先輩は笑顔で、
「実は、僕もそうなんだよ」「えっ、先輩が…」「設計は全体を把握し、ざっくりとおおざっぱな計算をして当たりをつける。そこから様々な変更に臨機応変に対応していくもんだよ」と、私の性格をフォローするアドバイスをもらいました。
立体駐車場の補強設計の申請が通るまで、1年ほどかかりました。完成した分厚い書類は大学の先生等で構成される、第三者機関の評定委員会にはかります。評定を取得すると国から補強に関しての助成金が下りる仕組みです。
評定委員会の席で構造物の耐力の計算方針を聞かれうまく答えられず、この時も先輩に助け舟を出してもらって。全然力が足りないなーと。でも、ちょっと嬉しかったこともありました。補強する支柱に色を使ったりして、私は見やすさにこだわったので、評定委員会の先生には「きれいにまとめられて、わかりやすい図面だね」という言葉をいただきました。
今、一級建築士の取得を目指しているのですが、資格を取得した暁にはいずれ新築物件を手掛けてみたい。超高層ビルを指差して、「これ私が作ったビルよ」と、言ってみたい(笑)。
取材・文/根岸康雄