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飯沼純(42才)とエリック・ホワイトウェイが共同代表を務める株式会社Cogent Labs(以下・コージェントラボ)。2015年半ばから本格的に事業を開始した2人は、昨年2月に第三者割当増資を実施し総額13億円の資金を調達。昨年8月にはAI技術を駆使し、手書きの文字や活字を高精度で読み取る「Tegaki」を発表。
様々な業界で使われてきた手書き帳票の文字を99%以上の精度で読み取り、テータ化する製品は圧倒的な効率化を実現した。
■AIでデータをデジタル化
渋谷区代官山のオフィスで働く40名ほどのスタッフの約8割は外国人。異なるスキルを持ったインターナショナルな人間を集めることは、外資系企業出身の飯沼とエリックの会社設立当初からの目論見だった。
AIブームが席巻した2015年当時、多くの企業はAIの活用を模索していた。だが、AIを使う前に今、取り組むべきビジネスの課題を教えてほしいと、飯沼は企業のミーテエィングに呼ばれるたびに問いかけた。すると、
「実はデータの入力が大変です。これまでの資料は全部紙で、これをデジタル化するには膨大な手間がかかります」と言う話を耳にする。飯沼のインタビューを元に「Tegaki」開発までのエリックとのやり取りを再現すると、こんな感じだったに違いない。
「紙の資料をビックデータ化したいが、各企業の現場では膨大な紙データの入力がおぼつかないんだ。そもそもインプットとアウトプットは属人的というか、人の能力に負うところが大きい」
「誰がデータを入力するか。経験のある人は正確だし早いけど、経験のない人は遅いし間違いも多い」
「例えばさ、AIの技術を知ってみるとイメージでものを理解する能力に長けている。AIは手書きの帳票を読み取ることに、役立つんじゃないか」
飯沼はそこまで語ると腕を組む。わずかな沈黙が流れる。飯沼もエリックも手書きや印刷の文字や数字を光学的に読み取る、光学式文字読み取り装置(以下・OCR)の存在は知っている。
「でも、OCRの精度は70%程度だというぜ。使っている会社はOCRプラス人で、ビジネスを回している」
「技術があっても、大量の人を抱えて人海戦術で補填しているというわけだね」
「大手企業は入力業務とかを外注に出す。でも中小企業はそんなお金を出せない。うちの実家の鋳物工場だって、注文書とか大量のドキュメントを、事務員が時間をかけて入力するしかない」
飯沼の実家は埼玉県川口市で、鋳物工場を営んでいる。
「仮にOCRの精度が90〜95%に上がったら、人件費を大幅にカットできるね」
エリックの議論は鋭く、リスクやマーケットの競合や、開発するプロダクトがどのくらいのパイを持っているのか等、具体的だ。
「AIを使い、飛躍的に精度の上げた手書きの読み取りの装置が実現したら、人件費の大幅カットにつながるから、中小企業でも入力業務を機械に任せることができる。その分、中小企業はものづくりに集中できるぞ」
「約300万社あると言われている日本の中小企業の中で、仮に1%の3万社が月額で最新の読み取りの機械を使ってくれたら、十分にビジネスになる」
「よし、やってみよう!」