日本各地には「いいもの」を作る企業が多く存在する。
だが、「いいもの」というだけで売れるのだろうか?
どんな商品も宣伝をしなければ消費者には届かない。もし「宣伝」という単語が不適切というならば、「発信」と言い換えよう。いずれにせよ、「このような商品がいくらで売られている」ということをアピールしなければならない。
そうした点が、地方の中小企業にとっては壁となってしまう場合があるようだ。
■危機は暖冬から
冒険家の植村直己は、兵庫県加古川市に所在するワシオの靴下を愛用した。
この企業が売り出す防寒着ブランド『もちはだ』は、驚異的な保温性で知られている。冬場に外で活動する人々にとって、ワシオの『もちはだ』は「必需品」とも言えるアイテムだ。
しかし、そのワシオが危機に陥った。2015年から翌16年にかけての冬は、全国的に高温だった。防寒着生産に特化していたワシオは、その煽りを真正面から受けてしまった。
それに加え、もちはだは肌着である。すると「あれは年寄りが着るもの」というようなイメージが消費者の間で定着してしまう。人間は格好いいものを身につけたいと考える動物だ。ファッション性に劣る製品は、やはり売れない。
経営者の次男坊、1991年生まれの鷲尾岳氏が実家に戻ってきたのは、ちょうどその最中だったという。
ワシオは創業60年の歴史の中で、常に「いいもの」を提供し続けてきた。それがいつも市場に受け入れられ、利益を確保していた。しかしだからこそ、独自の発信力を養う機会が失われていたという。
「発信の方法に関しては、本当にゼロからのスタートでした」
鷲尾氏は筆者にそう話した。
「もちはだはダサいんです」