■黒とステンレスを基調としたデザインにした理由
『豆から挽けるコーヒーメーカー』は、それまでの無印良品のキッチン家電とはデザインイメージが異なる。無印良品のキッチン家電といえば、白を基調とし柔らかい印象が強いが、黒とステンレスを基調とし、業務用のイメージを彷彿とさせる。
それまでのキッチン家電と雰囲気を変えたのは、「新しいステージに立ちたい」という無印良品のアドバイザリーボードの一人である深澤直人氏のアドバイスによるところが大きかった。中川氏は次のように話す。
「メーカーのロゴがない白くてシンプルな家電は、日本のほとんどのメーカーがやり始めています。謙虚さの中にある美しさを伝える、といった無印良品の役目は、白を基調としたキッチン家電で世の中にしっかり浸透しました。従来とは違いこだわりが詰まったものだということを表現するために、黒とステンレスを使うことに決めました」
■発売1か月で予約販売に切り替える事態に
2017年1月、同社は『豆から挽けるコーヒーメーカー』を報道発表。そのとき、店頭販売に先がけて先行予約販売を実施した。用意した台数は3000台。ところが、2月の店頭販売を前にして3000台を完売してしまった。
このような事態が起きたのは、発売前にテレビ東京の「ガイアの夜明け」で紹介されたため。「テレビ放送に合わせて先行予約を開始しましたが、放送中にネットストアの在庫がすべてなくなりました」と中川氏は振り返る。
当初の計画では半年で6000台程度と、かなり控えめなものだった。万が一の在庫切れなどを防ぐ意味でも、9000台は確保することにしたが、発売から1か月後には、用意していた9000台を完売。2月に部材を手配したが、部材が揃い量産できるようになったのは5月になってからだった。
したがって、9000台完売後は予約販売で対応。生産能力も徐々に上げていったが、8月下旬までこの状態が続いた。予約してから手元に届くまで、最大で3か月近く待たなければならないこともあった。
このような状況では、販促などできるはずもない。だが、店頭販売できるようになった現在、本格的に取り組み始めたことがある。それは、各店舗が独自に地域のロースター(焙煎業者)と組んで実施するワークショップ。また、店舗にいるテイスティングアドバイザーに、美味しいコーヒーの淹れ方や『豆から淹れるコーヒーメーカー』についてのレクチャーを実施し、店頭でコーヒーと機械の両方を勧めることができるようにした。「これらはもともと、発売当時からやりたかったこと。メディアで伝えられていること以外の+αを伝えることができるようになりました」と中川氏は話す。