■連載/ゴン川野の阿佐ヶ谷レンズ研究所
■Introduction
銀塩カメラ時代は望遠撮影より、マクロ撮影の方が困難だった。その原因はフィルムの面積が大きかったことにある。まあ、別の理由もあったが、現代では撮像素子の小さなスマホで撮影しているので、レンズのすぐ近くまでピントが合うのが常識で、コンデジを使えばレンズから1cmまで撮影できる機種が多く存在する。しかし、銀塩時代はコンパクトカメラも一眼レフも最短撮影距離は0.7mとか0.5mぐらいが限界。撮影倍率も0.15倍とか0.23倍ぐらいだった。撮影倍率というのは、フィルム、いまならセンサーに写る被写体の大きさが実物に対してどれぐらいになるかを意味する。1:1であれば等倍と呼ばれ特殊撮影の領域に突入である。50mmマクロレンズは0.5倍しかなかったが、それでもマクロ撮影だったのだ。そして、ズームレンズには簡易マクロ機能があり、リングをマクロまで回すと近接撮影ができたが、画質とシャープネスはイマイチだった。
マクロ撮影で撮影倍率より重要なのがワーキングディスタンスである。これは最短撮影距離がセンサーから被写体までの距離なのに対して、レンズ前面から被写体までの距離を意味する。こちらの方が実用的な数字なのでコンデジなどの最短撮影距離はワーキングディスタンスで表示されることが多い。スマホもこちらが使われる。マクロレンズと言うとやたら近付けるレンズと思っている人がいるが、近付かないとピントが合わないレンズは使いにくい。障害物があって近付けない。三脚を使うと近付ける限界がある。昆虫や動物など近付くと逃げてしまう。そこで便利なのが望遠マクロレンズである。ちゃんとした一眼レフのメーカーなら、標準マクロレンズと望遠マクロレンズが揃っているはずだ。
デジカメ時代に突入するとセンサーサイズが小さくなったことも手伝ってマクロの倍率がどんどん上がってきた。特殊レンズやベローズや中間リングを使わなくても一眼レフで等倍撮影が可能になった。センサーサイズの小さいフォーサーズはさらに有利で、60mm相当で撮影倍率2.5倍(35mm換算)の『M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro』が登場した。最短撮影距離0.095mで高速AFが使え、無限遠までピントがくる。このレンズは私も仕事で使っている。以前のOLYMPUS OMシリーズにはもっとすごいマクロレンズが存在した。それが『ZUIKO Auto-Macro 20mm F2』である。6〜12倍ぐらいまで使えたようだ。中古がヤフオクに時々出品されている。これを現代に蘇らせたのが中一光学『FREEWALKER 20mm F2 SUPER MACRO 4-4.5:1』(2万5000円)なのだ。最短撮影距離約120mm、ワーキングディスタンス20mmで、マニュアルフォーカスの実絞り方式である。