最大出力7.2ps…この数値を見ただけで、心がアツくなれる人にぜひお伝えしたいことがある。50ccスポーツスクーターは今もアツイってことを。
■レーサーレプリカのようにスポーツスクーターも尖っていた
16歳になり原付免許を取り、50ccのバイクに乗ると、世の中が一変する(こともある)。
多くの人にとって、幼き頃の最速の乗り物は自転車であろう。そしてバイクは、自分以外の動力だけで進むことができる初めての乗り物になる。もちろん、上り坂でへこたれることもない。電車やバスのように時刻表を気にする必要もない。まさに、自由を勝ち得た気分になるのがバイクだといえよう。
かつてレーサーレプリカのバイクが巷にあふれ、性能が日に日に進化していったのと同じ頃、50ccバイク、とりわけスクーターもまた、性能が著しく進化していた。“スポーツスクーター”と呼ばれる高性能なスクーターが続々誕生したのだ。その元祖とも呼べるのが、ヤマハの『JOG(ジョグ)』であろう。
■スタイリッシュでパワフルな初代『JOG』
1983年に誕生したヤマハ『JOG』は、フェンダーがカウルと一体になったスタイリッシュなフォルムに鮮やかなカラーリングを施した、新時代を予感させるスクーターだった。
エンジンは49ccの排気量から最大出力4.5psを発揮する2ストローク。セルスターターも用意されていて。それでも乾燥重量は49kgと軽量。鋭いダッシュで“スクーターは遅い”という世間の常識を覆したエポックメイキングなスクーターだ。価格は9万9000円と、10万円を切るリーズナブルなもの。
この軽快で、手の届きやすいプライスのスクーターに、若者は飛びついた。販売1年で30万台を記録する大ヒットモデルになったのだ。エンジンが空冷単気筒の2ストロークタイプだったこともあり、いじるのも簡単。
なので、カートコースなどを利用した「スクーターレース」が人気を得るようになる。スクーターにフルフェイスのヘルメットをかぶり、革ツナギを着て、コーナーでハングオン…。今までは考えられなかった、“スクーターでスポーツする”ことを可能にした原動力が、この初代ジョグだったことは間違いない。
1977年に登場して人気だった初代『パッソル』に、ジョグのエンジンや駆動系をスワップする、通称“パッジョグ”が流行するなど、50ccスクーターを楽しむ文化が根付いたのも、ジョグの大きな功績だった。
翌年の1984年には最大出力を5.2psまで向上させ、デジタルメーターも選べた『Champ(チャンプ)』が登場した。こちらも乾燥重量を51kgに抑えたこともあり、鋭い走りを実現、ヤマハがスポーツスクーターの人気を集める立役者となった。
スポーツスクーターの人気はとどまることを知らず、当時のレーサーレプリカブームの波に乗った。その象徴ともいえるのが、1987年に限定販売された『チャンプRS TECH21』だろう。最大出力6.3psの『チャンプ RS』をベースに、鈴鹿8時間耐久レースで平 忠彦選手がライディングした、資生堂TECH21レーシングチームYAMAHAの『YZF 750』のカラーリングをイメージしたもの。“レーサーレプリカスクーター”とも呼べる、ブームの絶頂期にいたスクーターだった。