もう一つ。どうやって“マト1”と判断するのか、という疑問に答えておく。レコードのrunout、つまりレーベル外側の溝がない部分に、アルファベットや数字が刻まれているのだ。この記号はどのレコードにもあるのだが、見分け方はかなり複雑ゆえ、やはりここではこれ以上触れない。
runoutに刻まれた記号。TPS3511はレコード番号。A-1UのAはA面を表し、1Uがマト1を表す。アルバムはディープ・パープルの『MADE IN JAPAN』
以上のように、“マト1”とはかなりマニアックでオタクな世界だ。一般の人にはさっぱりわからない。しかるに誰であれ、“マト1”とそうでないレコードを聴き比べると、耳から鱗、別次元の音に感動すること必至、好きな曲ならなおさらだ。
さてこれから、やっと本題。“マト1”を論じるブログや雑誌記事はある程度存在する。だがこればかりはいくら文字で読んでも、実際に自分の耳で聴かないことには実感が湧かない。そこで「レコードの達人」と称する、“マト1”を聴くイベントを作ってしまった。
その昔の80年代前半、オーディオ黄金時代に在籍していた雑誌『FMレコパル』で原稿を依頼して以来、今にお付き合いが続く僕のオーディオとロックの師匠、音楽プロデューサーの岩田由記夫さんとともに、2日月に1回開催、次回の12月16日で第10回を迎える。
今まで聴き比べた作品を列挙しよう。『Ⅰ』『Ⅱ』『Ⅳ』(レッド・ツェッペリン)、『狂気』『炎』(ピンク・フロイド)、『クリムゾン・キングの宮殿』『レッド』(キング・クリムゾン)、『危機』(イエス)、『タルカス』(EL&P)、『ホテル・カリフォルニア』(イーグルス)、『オペラ座の夜』(クイーン)、『ドアーズ』(ドアーズ)、『ひこうき雲』(荒井由実)etc.
イベントでは、まずCDを聴く。その後は、どんなレコードを僕が所有しているかによる。日本盤の初版vs最新リマスター盤vs UKマト1、最新リマスター盤vsプロモーション用シングル盤vs UKマト1、ツェッペリンやイエスのようにUKもUSも音がいいとされるアーチストはUKマト1vs USマト1。さらにアメリカ盤は生産工場によって音が違うとも言われ、ツェッペリンの『Ⅰ』では工場比較も行った。来場してくれた録音の良さに定評のあるプロの女性シンガーは、「ひこうき雲」の2013年リマスター盤とマト1を聴き、「マト1に涙が出ました」と感動してくれた。