●池ちゃん、まっいろいろあったけど。
実は私、もっと大きな失敗をしているんです。『赤毛のアン』は量販店等に置かれた応募ハガキを投函し、抽選で当たった人をご招待する形なんです。私はそのハガキに『52円の切手をお貼りください』という添え書きを記して、全国に配布してしまった。ハガキは今年の6月から62円に値上がりする。キャンペーンは4月〜6月末で、私は誤った文章をハガキに記して何十万枚も印刷し、配ってしまったんです。
「刷り直すとデザイン費も含め、500万円はかかりますよ」ミスに気づき、あわてて発注した業者さんに問い合わせると、そんな返事が返ってきまして。私は会社に500万円も損害をかけてしまったのか……。
どうしよう……、責任を取って会社を辞めなければいけないという思いも頭をよぎって、パニック状態になった。ミスに気付いたのが朝の10時ごろで、思い悩んだ末に「実は…」と、上司に報告したのは夕方5時。
「うーん」、40代後半の上司はちょっと考えると、「6月1日から62円に変わりますというタグを付ければいいじゃないか」と。応募ハガキは25枚で1セットになっている。セットの頭に『ご注意!6月1日から62円に変更になります』という、添え書きのタグを付ける方法を上司は考えついたのです。タグがあれば大問題にならないし、500万円の損害も回避できる。そんな営業経験の豊富な上司の判断でした。
「わかりました!」私はパワーポイントでタグを作り業者に印刷してもらいまして。謝罪文を添え、営業担当者から各量販店の本部に配ってもらい、店舗に落としてもらったんです。
「まっ、いろいろあったけど、池ちゃんも頑張ったし」「千秋楽はご褒美で」
そんな話が上司の間であったのか、
「池ちゃん、『赤毛のアン』の千秋楽のオペレーション統括を担当してよ」と、大阪の千秋楽の朝礼の前に上司から言われまして。オペレーション統括は、ミュージカル運営の総監督のような役割で、通常は部長クラスが担うのですが、やるしかない。
「今日、オペレーション統括を担当する池田です!」40名ほどのスタッフの前で、そう言った時はざわつきましたね。いろいろなことがありましたが、千秋楽の幕が無事に下りた時は達成感がこみ上げてきました。
入社3年目でいろんなことを任されたのは、この会社の良さです。でも、それは私からすれば悪い点でもあって、任され過ぎで精神的にホントしんどかった(笑)。
取材・文/根岸康雄