●コミュニケーションはメシ
金沢文庫通信区には6班あって各班5〜6人。僕はお酒があまり飲めないんですが、みんな飲みの席よりも詰所でよくご飯を作って食べるんですよ。日勤夜勤日勤と続いてけっこう仕事はきついんですが、昼も夜も自分たちでどっさり作る。ラーメンなら一人2人前、マーボー丼ならご飯は一人1.5合。
金沢文庫の詰所には、通信区と電力区がありますが、「昔は通信区が得意なのは麺、電力区は飯という伝統があったんだよ」と、先輩に聞きました。京急の現場には、コミュニケーションはメシだという精神がある。僕は飲めない分、食べることが好きですから、その意味でも現場の仕事に馴染むのは早かった。
辛かったのは配属になった翌年、都心に記録的なドカ雪が降った時でした。「ポイントがかえりません!」電車のレールを替えるのに支障をきたす緊急事態に、僕たちが出動しました。基本レールと電車を別の線路に導く動くレールの間に雪が詰まって、作動に問題が生じている。ポイントの雪を除去して、電車の運行の遅れを最低限に食い止めなければならない。
人の行き来がない線路は雪が積もり放題で、腰あたりまで雪に埋もれながら、スコップややかんのお湯をかけて雪を溶かしたり、レールとレールの間に積もった雪を小さなヘラでかき出したり。一箇所の作業が終わると、「早く次のポイントもお願いします!」と、無線で連絡が入ってくる。24時間寝ないで対応しました。体力的にきつくかった。
鉄道会社ってこんなにキツイんだ、俺やっていけるかな、会社辞めようかな……って想いが、頭をよぎりました。
●ちょっとトイレ…
それでも他の通信区から応援に駆けつけてくれて、電車を運行させるためにみんなが力を合わせることの大事さを痛感しました。作業が一段落して、やっと詰所に戻った時は大鍋にカレーが出来上がっていて…あのカレーはうまかった。でも僕はお腹が弱くて。疲れが重なったのか、あの時もお腹をこわした覚えがあります。
金沢文庫通信区で10ヶ月間勤務して、次に乗車区に異動し、京浜急行の車掌の見習いを3ヶ月間やりましたが、車掌は乗務時間が長い。その間、緊張もあってお腹の弱い僕は腹痛を起こしがちになる。
「先輩、すみません、ちょっと…」
「また、トイレかよ」
「すみません、以後気をつけます」
腹を抑えながら、同乗している先輩に頭を下げて途中下車をして。これではいけないと病院に通って、腹痛に効く強めの薬を出してもらったんですが。
車掌、杉山さんの失敗談は後編へ続く。
取材・文/根岸康雄