■部下を育成する力がない
ただし、例外もある。上司が部下を時間内で育成する経験が浅く、実は要領を得ていない場合だ。建前として、多くの会社では上司は部下を育成できるだけの力があることになっているが、取材をしていると必ずしもそうとは言えない場合がある。
特に最近は、プレイング・マネージャーが浸透している。課長や部長は、プレイヤーとしての仕事が忙しく、部下の育成などに手が回らない。こういう管理職は部下を育成する経験が浅いがゆえに、あなたがモタモタしていると、厳しく叱るのかもしれない。しかし、その場合でも、ひとりにだけ叱るのは解せないものだが。
私の取材経験をもとにさらに言えば、実は上司が、部下とコミュニケーションがスムーズにはできない、いわゆる「コミュ障」の場合もある。たとえば、部下の考えていることがわからない。なんとなく理解ができても、上司として何をするべきかが、わからない。指示らしきことをしても、タイミングや場所が極端に悪い。ついには、部下からも敬遠され、浮きまくりになってしまう人もいる。こういう上司は自分を大きく見せようとして、反論をしてこないような部下を選び、厳しく叱ることがある。実は、私が30代半ばの頃の上司もこの類だった。
■静かに闘う
あなたにだけ厳しく叱るならば、あなたはその上司と同じ土俵には上がらないことだ。そこで激しく言い争うことをしても、意味はない。大切なことは、同じ土俵に上がることなく、静かに闘うことだ。まず、孤立するのを避けよう。可能な限り、周囲の社員と話し、食事などをしてリンクし合うのだ。上司は、それを分断しようとするかもしれない。なるべく早く、味方をつくるのだ。そして、誰ででもできるような仕事においてミスをすることを避けよう。上司は、そのようなミスをすると、揚げ足をとることがある。
さらに、上司と二人だけになったときなどに、ソフトな物言いで数回、反論をしてみよう。たとえば、「それはどういう意味でしょうか?」「なぜ、私なのでしょうか?」などだ。こういうことを数回で構わないので、口にすると、「こいつは反撃をしてくるかもしれない」と思う可能性がある。
相変わらず、あなただけに厳しく叱るならば、今度は皆の前であえて大きな声で反論をしてみよう。周囲の社員は、浮動票だ。必ず、そのとき、勢いがある方につく。それが、組織で生きていくうえで安全であり、精神的にも負担が少なく、楽だからだ。ただし、相手が上司である以上、土壇場のところでは、寸止めをして、上司としての面子を守ってあげるくらいの余裕がほしい。
最後に…。上司があなたにだけ、本当に厳しく叱り続けるならば、これまでの数年間のことを事実に基づいて検証をしてみよう。特に上司やその側近である先輩社員との人間関係にこじれや摩擦がなかったかどうか、だ。自分としては「摩擦などはない」と思っていても、上司たちがどのように感じ取っているかは、別問題だ。通常は、何かがないと、ひとりの部下を狙い打ちにするかごとく、厳しく叱ることはしないものだ。だが、だからといって、あなたが必要以上に委縮したり、反省をしたりするべきではない。狙い打ちにするような叱責は、本来、大きな問題なのだ。
文/吉田典史
ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)。
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