■連載/あるあるビジネス処方箋
今年の5月、私が4年前に取材で知り合った女性が会社を退職した。新卒で入り、29歳で辞めたことになる。
上司の、30代後半の女性と仕事の進め方などをめぐり、数年前から対立することがあった。そして、1年半ほど前から職場で孤立し、話をする人もいなかった。この女性と2週間ほど前に会い、退職に至るまでのプロセスを聞いた。その多くは、私には事実ではなく、事実を歪曲したものにしか思えなかった。
今回は、この女性に限らず、事実を事実として受け入れないことの問題点を考えてみたい。
■事実を歪曲している
この女性が上司である女性からバカにされ、職場で孤立し、辞めていかざるを得なくなったのは事実である。問題は、ここからだ。会社員の特に30代後半までくらいの人を取材していると、この事実を間違って解釈している人が目立つ。10人のうち、9人が事実を歪曲して受け入れているように私には思う。
今回のケースでいえば、「女性は直属上司の女性から認められなかった」ということだけが事実なのだ。それ以上でも、それ以下でもない。ところが、周囲の社員の中には、そこから「女性は、仕事の能力が低い」となり、ついには「会社員に向いていない」とレッテルをはる人までもが現れる。
本来は、ここまで言い切る根拠は、現時点ではないはずだ。しかし、多くの人がこのように歪曲していることも事実だ。残念なことに、本人(女性)もが、「私は会社員には向いていない」と事実をねじまげてしまっている。
■自分が不利になるように仕向けていく
事実をねじまげて受け入れると、大きな損をしてしまうことがある。たとえば、「私は会社員には向いていない」と言い切ることができないのに、そう思い込む。ほかの会社へ転職して移ろうとも、うまくいかないことがあると、「やはり、会社員に向いていない」と考える。
ここでも、実は根拠があいまいだ。しかし、そのことに気がつかない。「たまたま、めぐり合わせで上司とうまくいかなった」可能性もある。そこまで広い視野で考えようとしない。自分で自分が不利になるように仕向けていくのだ。
■誤った解釈を拡大させていく
事実を歪曲し、受け入れる人が陥りやすいのは、新たな問題を見つけ出すことだ。
「私は会社員には向いていない」から、今度は「私は、仕事ができない」「人間関係処理能力が低い」などと飛躍させる。これらもまた、明確な根拠がない場合も多々ある。
ところが、自分でどんどんと誤った解釈を拡大させていき、止まらない人もいる。最後には、「私はダメな人なのだ」と自暴自棄になる。しかし、冷静に考えると、そこまで言い切ることはやはり、できない。はっきりと言えるのは、「上司からバカにされ、職場で孤立し、辞めていかざるを得なくなった」だけなのだ。