−−なぜ『S100』を作ったのですか?
大平氏: 『S100』は“持つ喜び”をユーザーのみなさまに感じていただけるために、デザインチームと電卓の本質について見つめ直しました。
宇都宮氏:高級品といわれるモノ。たとえば万年筆などは100年経っても機能が変わらないけれど、所有する喜びは大きい。電気製品でもそういう喜びがあるんじゃないかと思っています。
ただし、カシオ計算機では「使い勝手」は譲れない。デザインのための電卓ではなく、50年間作ってきた商品としてのポリシーはあるので、踏襲すべき伝統は守り、そこから新たなデザインを模索しました。
−−電卓の本質とはどういうことですか?
宇都宮氏:まず、キーを連打してみて下さい。その後のディスプレイに表示する反応速度が、通常のモデルより速いんです。ほんの0コンマ何秒の反応の違いが気になるという、プロの細かな感性を大事にしています。
大平氏:それから、通常のモデルではキーの端を押すと、どうしても斜めにグニャっとしてしまうんですが、『S100』はV字ギアリンク構造を採用していて、キーの端を押してもストロークがぶれず、しっかり押せます。経理など、実務のプロはキーボードを見ずに入力する人が多いです。そういう方の誤入力を減らすことにもつながりました。
宇都宮氏:誤入力を抑えながらも、打ちやすくするためにキーはなるべく大きくしたい。ですが、基本となるのは、長年電卓を作り続けてきた上で最適なキーピッチと考えている、18mm幅です。
大平氏:さらに、ディスプレイは両面反射防止コーティングを施しています。通常のモデルの最上級型と比べても、映り込みの少なさがご理解できるかと思います。また、液晶も見やすくしたかった。なので、コントラストを高める工夫をしています。背景が紙のように真っ白で、文字が墨のように真っ黒だとコントラストは上がる。しかし、今回はそれだけではなく、“使う人の感性に訴える”ため、文字色を万年筆のようなブルーブラックにしました。
宇都宮氏:これまでは、液晶を大きくしたらギリギリまで文字を大きく入れる事が良しとされてきましたが、今回は大きくした分は“余裕”を感じさせる“空間”として活用しました。さらに、セグメント(数字などを表示するための菱形のバー)の間を詰めて、なるべく数字が繋がって見えるようにしています。
以上のように、電卓の本質を考え、できる改良点はほぼ、取り入れました