■社員間の競争が少ない
中小企業では、社員の競争が少ない。大企業のように、社員の質が高いわけではない。様々な形で人材のレベルの底上げがされていない。大規模な配置転換や人事異動も少ない。定着率が低いから、そこそこのレベルの人でも10~20年勤務すると、多くは管理職になる。役員になる人もいる。こういう職場では、20代の社員間の競走も緩やかになる。そもそも、20代の社員は少なく、数年以内に辞めていく人が多い。残る人は、自分を過大評価しやすくなる。
■自分を思い知る機会が少ない
中小企業では、自分を思い知る機会が少ない。大企業の場合、新入社員は研修期間で様々な試験を受けたりする。その優劣で所属部署などが決まることがある。厳格な査定評価を早いうちから受けて、セレクトされる傾向がある。特にこの10数年は、その傾向が顕著だ。
20代前半で早々と花形部署に行く人がいる一方で、不本意な部署で10~20年と働く人も少なくない。機会あるごとに研修や昇格試験などを受けたりして社員間で優劣を競わざるを得ない。30代半ば以降になると、リストラも頻繁にある。優秀な後輩が毎年次々と入ってきて、煽られたり、昇格で追い抜かされたりする。
■人事評価が極めてあいまい
社員数が数万人になる大企業の人事評価も、あいまいな部分はある。だが、中小企業は一段とひどくなる。あいまいを通り越し、めちゃくちゃな評価になっている会社もある。中小企業では、社長の一存で決まることが多い。せいぜい、数人の役員を含むぐらいだ。社長や数人の役員の受けがよければ、20代でも、実際の力以上に高く評価される。仕事のレベルは低くとも、皆がその社員を認めていかざるを得ない。つまり、勘違いした20代社員が生まれやすい構造になっているのだ。
中小企業は賃金の面では大企業に比べると大きなハンディがある。だが、とらえ方によっては、いいところもある。能力に自信がない人や、激しい競争の中、仕事をしていくことにためらいがある人は、中小企業に進むのもいいのかもしれない。社長や数人の役員のお気に入りになれば、20代でも高く評価され、40~50代と対等の扱いを受けることもある。大企業の20代の社員よりは、活躍の場はあるのかもしれない。
だが、社長や数人の役員は相当にワンマンで、人事などを強引に動かす傾向が強い。理不尽な扱いを受けることも少なくない。そこまで含めて考えてみたほうがいいのではないだろうか。
文/吉田典史
ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)。
■連載/あるあるビジネス処方箋