3次元で戦う世界最速のモータースポーツ・シリーズ「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ(Red bull Air Race World Championship)」。 空気で膨らませた高さ25mのパイロン(エアゲート)で作られた低空のコースを、最高時速370km、最大重力加速度10Gの中で競い合うレースだ。
以前、日本人で唯一シリーズへ参加する室屋義秀選手が操縦するアクロバット機に、報道関係者が招待され同乗できるという機会が設けられた。エアレースとはどんな世界なのか? 曲芸飛行との違いは何か? 世界最高峰のフライトテクニックとは何か? 恐怖におののきながらも、体験搭乗に向かった。
■脱出用のパラシュートを着用しろ、って……
昨年、福島県福島市にある「ふくしまスカイパーク」で行なわれたフライト体験。使用された飛行機は『エクストラ300L』というドイツ製の機体だった。全長約7m、全幅約7.4mの複座機で、9000ccの水平対向6気筒空冷エンジンが絞り出す300馬力の出力は、2mの直径を持つプロペラへと伝えられ、時速400kmを超すスピードを生み出す。
この飛行機は、直線でのスピードを追求するというよりは、操縦性や回頭性を高め、クイックなレスポンスを目指すタイプ。空虚重量682kgと極めて軽量なので、その動きは機敏そのもの。最大10Gの重力加速度でも問題なく旋回が可能なモンスターマシンだ。エアレースでは基本構造がほぼ同じながら単座タイプで高性能の『エッジ530』、『コルバスレーサー』、『MXS-R』が使用される。
地上での移動には大人1人でも押せるくらい軽いボディーだが、剛性(強度)はとても高い。そんな軽量骨太な飛行機に乗り込む前に、体験搭乗するメンバーが試乗についての説明を受ける。「コースの説明かな?」と思っていたら、さにあらず。なんとパラシュートを背負いなさいと言われたのだ。
「万が一のためですよ、万が一」と係の人から声をかけられるが、一同総じて顔色が青ざめていくのがわかる。マジか……もう逃げられない状況であることに気づき、後悔の念をぬぐいきれなくなる。