かつてグランプリマシンの開発には莫大な開発資金が投じられ、さまざまな技術的なトライが積極的に行われていた。レース毎に新しいパーツが投入され、まさに日進月歩の進化が続いていた。だが現在のグランプリマシンは、数々の「足かせ」でがんじがらめになっている。「足かせ」とは、開発の行き過ぎに待ったをかけるテクニカルレギュレーション(マシン製作の際に従わなければならない規則)だ。
例えば、タイヤはミシュランのワンメイク──1社供給である。かつてはダンロップvsミシュラン、ブリヂストンvsミシュランなど、タイヤメーカー同士の開発競争が激しい火花を散らしていた。そしてモータースポーツの場合、メーカー間の開発競争の激化はコスト高騰を招く。これを抑えるために、1社供給としているのだ。
その結果、レーシングタイヤの命とも言えるグリップ力は、メーカー間の競争があった時代のように、高まり続けているわけではない。もちろんライダーの要求に合わせて進歩はしているものの、言わば「自分との戦い」。外にライバルがいる競争ほどの苛烈さはない。
エンジンも、1シーズンで使用できる基数が7基に決められているから、パワーと耐久性を備えなければならない。さらにシーズン中の開発は凍結。レーシングマシンの頭脳とも言えるコンピュータ、ECU(エンジン・コントロール・ユニット)は、ハードウエア、ソフトウエアともにワンメイク化されている。これも開発費を抑えるためだ。
高度化を極めている最新MotoGPマシンは、何をするにも莫大なコストがかかるのだ。価格をつけるとすれば1台あたり4億円とも5億円とも言われ、メーカーにとっては大きな負担だ。それゆえメーカーが参戦を取りやめたり、参戦台数が減少してしまうことを憂慮し、さまざまな開発コスト抑制策が施されているというわけだ。
また、エンジンには燃費という足かせもある。天井知らずのパワーアップを防ぐために燃料タンク容量が22Lに制限されており、おおよそ6km/L前後という(レーシングマシンとしてはかなりの)低燃費を達成しなければならない。まさにがんじがらめである。
技術的に相当ハイレベル化し、熟成を極めているMotoGPマシン。簡単に言えば、「やるべきことをやり尽くした」状況だ。かつてのように「斬新なアイデアで一発逆転」といった新機軸はほとんど望むべくもなく、各メーカー間でほんのわずかな差を競い合っている状態である。
あるメーカーの開発者は「重箱の隅を箸でつつくどころか、針でつつくようなもの」と言い、別の開発者は「ネタ探しに苦労している」などと表現した。豪快なライディングのイメージとは裏腹に、実にシビアな世界なのだ。
しかし、厳しい足かせがはめられていても、レースはレース。あくまでも競い合いだ。ライバルより1秒でも先にチェッカーフラッグを受けたい。だから、無駄という無駄を徹底的に省き、効率を徹底的に追求するのが最新MotoGPマシンのトレンドだ。そして「そのひとつが、フリクションロスの低減」と青木さんは説明する。