■善も悪も返ってくる。時が経つほど利息をつけ
37歳の時、若林はバスの東京営業所長になった。ところが、ここでも問題が待っていた。一言で言えば、職場の風通しが悪い。
「年長の運転手は一匹狼タイプの方が多く、私も元労務だったため『給与を下げに来たのか?』と思われていたんです。そこで、全員と話すことにしました。バーベキューや花見を始め、運転手さんと二人で話したい時は、東京タワーなど、バスが到着する場所で待って話すんです。すると……地道な努力はしてみるもので、雰囲気がよくなった。それだけでなく、なんと事故が減った」
若林率いる東京営業所は、無事故等で表彰されることもしばしばだったと言う。しかし、日々問題が起きた。例えば、彼の元に「バスガイドが修学旅行の生徒に殴られた」という無線が入った時のこと。
「すぐ現場に駆けつけ、担任に抗議をしたら、先生はあっけらかんと『こんなのよくあることじゃないですか』と開き直るんです」
引き下がれない! と抗議を続けた。すると校長が来て『わざわざ抗議に来たバス会社の人は初めてです。若いのに部下のことをよく思っている方だ』と言う。
「そして校長先生は謝罪してくれ『今後もこういう所長がいる会社にバスをお任せしたい』と言ってくれたんです。信念を曲げず、正しいことを頑固に貫けば、ちゃんと道理が通るんですよ」
事情があって、取引先に抗議したこともあった。若林の強い姿勢に「これ以上問題を大きくしないほうが良いのでは」と助言してくる人間もいた。しかし彼は「ここで不正を見逃せば、間違ったことが当たり前の会社になってしまう」と引かなかった。
「不公平や不正をなあなあですませると、その場は丸く収まっても、長い目で見ると利息付きで大きなマイナスになって返ってきますから」
思えば、若林のこんな姿勢が、スキャンダルに揺れた企業を引き締めたのではないか?彼がグループ企業の伊豆箱根鉄道社長から西武鉄道社長へと抜擢されたのは、常に公正、公平を旨として生きてきたからではないか? すると、不条理をなあなあで済まさない姿勢は、いつか利息付きで本人を押し上げる、とも言えないか――。