■「パルクール」は自己を成長させる鍛錬方法
こうして、ワークショップでひと通り「パルクール」を体験してみた。最初に述べたようにパルクールとは、具体的には「カラダを機能的に鍛える方法」であり、自由に運動するためのコンセプトである。だが、技術を磨くスポーツではあるものの、他人と競い合う競技というよりは自己鍛錬を主眼としているので、存在としてはヨガやピラティスなどに近いかもしれない。
また、カラダを鍛えるトレーニングではあるが、精神修行や自己探求といった側面も持っており、ある種の哲学と言えるものでもある。
以下、「SENDAI X TRAIN」のホームページに掲載されているパルクール解説の一部を紹介したい。
「動きがシンプルだからこそ、課題の見え方も明白で、ほんの少しの変化さえすぐに感じ取ることができます。
難しい動きには恐怖心が付きまといますが、それを乗り越えたときの達成感は格別のものがあります。
より大きな達成感を感じることで、挑戦することへの意欲を掻き立て、自立的行動を習慣化します。
考え、行動し、反省し、また考え、行動し…。
その繰り返しがパルクールをより深く実践するために最も必要なプロセスになります。楽しむことや真似をすることはあくまでスタートラインであり、本質に辿り着くには自分と向き合い続ける必要があります。
弱点や欠点は何か、動きだけではなく全ての領域で考え、常に新しい自分を求め続ける事。
その途上で自分の色を見つけアイデンティティを強調しオリジナリティを豊かにします。
自己鍛錬 / 自己探究 / 自己表現
その要素をあわせもち健全で自由な心身を求めていくプロセスがパルクールなのです。
他にも、自分の見えない部分を見てくれる仲間を尊重する教えがあり、利己的にならずに他者の助けになる力を養うことを目指すなど教育的な観点もある。事実、デンマークでは教育に有効であると認められ、学校の授業にも採用されている。
このように多彩な顔を持つために全容が見えづらいパルクールだが、始まりは子供の外遊びの延長である。もしチャレンジしようと思われる方は、友だちと公園や野原を走り回っているだけで楽しかったあの頃の、子供心と好奇心を忘れずに取り組んでもらえたらと思う。
佐藤 惇(サトウジュン)
【出演】
TBS SASUKE 21th, 23th, 25th, 26th 大会
SEGA ファンタシースターオンライン2 opening movie
スキマスイッチ パラボラヴァMV
ハウスコム 「帰りたくなる家」 web CM
その他多数
【SENDAI X TRAIN】http://www.sendai-x-train.com/
■社会のルールや怪我について
最後に、パルクールにチャレンジするなら肝に銘じておかなくてはならないことがある。物を壊さない、進入禁止の場所に入らない、他人に迷惑をかけないなどの「社会のルールを守る」ということ。
YouTubeで検索すると街中を猛スピードで疾走する動画が多数ヒットすることと思う。その動画はどれも最高にかっこ良く、どうしても憧れを抱いてしまうだろう。だが、パルクールの本質に触れることなく、こうした動画の見た目だけを真似して私有地を勝手に飛び回る、街中で一般人と接触事故を起こすなどのトラブルが各地で多発してしまう時期があった(イギリスで特に多かったらしい)。このため、パルクールには「危険で非合法なもの」というイメージが定着することとなる。
現在、パルクールに取り組んでいる団体のほとんどは、このイメージを払拭するべく、他人に迷惑がかからないよう細心の注意を払って活動している。その人たちの足を引っ張らないためにも、これからパルクールにチャレンジしようと考えている人は、決してルールを犯さないように注意してもらいたい。
また、同様の理由で怪我にも注意して欲しい。まだマイノリティスポーツであるパルクールで大事故が発生、怪我人続出などの事例があると「危険なスポーツ」というイメージがついてしまう。本来ならば、人との接触がある球技や格闘技などに比べて格段に安全なスポーツであるはずなのだが、動画の影響で「高所や危険な場所で無茶なアクロバットをする」というイメージがあり、個人の怪我がパルクール全体の存在を脅かしかねないという環境にある。自分の能力を超えた無茶をしないよう、充分に注意して欲しい。そして、今回取材にご協力いただいた佐藤コーチのような確かな指導者の下で基礎を学んでから、自分の限界に挑んでもらいたいと思う。
ながながと小言を書き連ねてしまったが、筆者はパルクールが日本でも定着してもらいたいと思っている。ワークショップで体験して、パルクールはそれ自体とても面白いし、他の競技のためのトレーニングとして優れていると感じた。ぜひ、皆さんにも体験してもらい、そして楽しんでもらいたいと願う。
取材・文/太田史郎(おおた・ふみお)
※記事内の情報は取材時のものです。