この不景気により、あらゆる業界で不安が漂う中、転職業界は少し様相が異なるようだ。リクルートの転職支援サービス「リクルートエージェント」における、2024年4~6月期の「転職時の賃金変動状況(※)」によれば、「前職と比べ賃金が1割以上増加した転職決定者数の割合」は36.0%と過去最高値を更新したという。
こうした数値を知ると、わずかでも「転職したい」と思ったことがある人は、気持ちが動くのではないだろうか。そんな転職の際に欠かせないのが将来のキャリアプランを描くこと。今回は、転職希望者が知っておきたい転職エージェントの活用術から、キャリアの描き方のトレンドまで紹介する。
※出典:リクルート「2024年4-6月期 転職時の賃金変動状況」
転職エージェントの意外な活用術
転職活動の際、ひとまず転職エージェントには登録しておきたいが、せっかく利用するなら、意外な活用法を知っておこう。
●転職エージェントには転職以外の相談をしてもOK
転職エージェントに登録すると、1人の担当者が付き、自分に合った転職先を紹介してくれるのが一般的。その担当者にキャリアの相談ができるとはあまり思いにくいものだ。ところが、実際のところ、相談はできるとのこと。
リクルートエージェントに尋ねてみたところ、「相談してはいけないことはないですよ。実は、転職エージェントでの相談は転職ありきではありません。実際、転職についてだけ相談をされる方の方が少ないです」と回答が寄せられた。ここからは、キャリアアドバイザーの大石真弓氏、矢藤良介氏、山本芙沙氏、額賀七彩氏、桜井良輔氏、マネジャーの山口航氏、内山尋美氏による回答を紹介する。
実際、転職先の紹介希望だけでなく、次のような相談がよく寄せられるという。
・「親族や家族の状況を踏まえた仕事の選び方は?」
・「自分の経歴やスキルがどのように他の職種や業界で活かせるのか?」
・「そもそも自分の強みやスキルがわからない」
・「望む職種に必要な経験や資格についてのアドバイスがほしい」
「転職に限らず、働き方・仕事・キャリアについて悩んでいる方もご相談いただけます。最近ですと、子育てがひと段落されたことをきっかけに、久しぶりに社員として仕事をしたいという方のご相談も増えています」
●企業の内部事情も教えてくれる!?
もちろん、求人募集をしている企業について深堀して知りたい場合も、遠慮せず聞いていいそうだ。
「転職エージェントは、第三者として直接企業に確認ができることが強みです。求人票や企業のホームページには載っていない企業の内部事情や実際の働き方をお伝えできます。福利厚生や企業文化についての詳しい情報はもちろん、面接での具体的な質問内容や通過者の傾向、何回面接があるか・どんな内容か等の企業の採用プロセスの詳細もお伝え可能です。さらに、条件交渉や入社後のキャリアアップのためのアドバイスも受けられます」
●いま転職すべきかどうかも相談可能
中には、「職場の人間関係で悩んでいて転職を考えたが、こんなことで転職を考えてよいのかわからず、誰にも相談できなかった」という転職に踏み切るべきかどうかの相談もあるそうだ。
「ご本人の現状や叶えたいことによっては、今すぐではなく適切な時期を待った上で転職活動を始めたほうがよいケースもあります。転職をしたほうがよいのか、現職に残ったほうがよいのかを冷静に判断するための材料を集められるので、自信をもって現職に残るという方もいらっしゃいます。いずれにしても、ご自身が一番納得できる選択肢を見つけられるよう、サポートしたいと思っています。エージェントのような第三者に相談することで、内省が深められ、思ってもみなかった自分の強みがわかったり、想像していなかった選択肢が生まれたりすることもあります」
キャリアトレンドとおすすめの転職方法
ところで、昨今のキャリアトレンドはどうなっているのか。
「最近ではますます転職が当たり前の世の中になっていると感じます。異業種や異職種への越境転職も増加しています。また人材不足もあいまって、多くの企業は柔軟な働き方を提供することで、優秀な人材を引きつけようとしています」
このトレンドを受け、おすすめの転職方法を挙げてもらった。
●自分をよく知る
「こうした状況の中で、より自分で納得できる選択をするためには“選ぶ”立場になることだと思います。それには、まず自分をよく知ることが大事です。どんな経験をしてきたか、どんな強みがあり、それがどんな企業・ポジションで求められるのか。自分はどんなキャリアを描きたいのか。エージェントももちろんですが、身近な家族や友人などの第三者に、一緒に考えてもらうことで客観的にとらえることができ、理解が深まることが多いです」
●幅広い選択肢の中から選ぶ
「できれば『同時に、幅広い選択肢を見る』ことをおすすめします。ある志望意欲の高い厳選した数社のみに応募された方の例では、1社の内定が出た後に『本当にこの会社でよいのか? 他にももっとよい選択肢があったのでは?』と不安と若干の後悔の念を抱いていました。逆に、多数の応募やお見送りを経験された上で内定を獲得した方は納得されることが多くあるように思います。
もちろん、数多く応募すればよいというものではありませんが、興味がある求人があれば、お見送りを恐れず挑戦してください。情報収集も大事ですが、実際に転職活動をして選考を受けてみないと分からないことも多々ありますので、少しでも気になったら動いてみることをおすすめします」
キャリアの将来像の描き方
自身のキャリアの将来像を描くことが重要といわれる昨今の転職活動において、いま大切なことはなにか。コーチング事業を行う株式会社ルメス 代表取締役でキャリアコーチである宗像祐氏に話を聞いた。
宗像 祐氏
株式会社ルメス 代表取締役/キャリアコーチ
大学卒業後、IT営業や転職エージェント、スタートアップの取締役COOなどを経て、キャリアコーチング事業を展開する株式会社ルメスを設立。キャリア相談実績は累計5,000名以上。
「もちろん、キャリアの将来像をしっかり描くことは重要です。ただ、自身の成長や外部環境の変化などの影響によってキャリアの将来像は変わり、進化していくと思いますので、キャリアは描きつつも、決めたことにこだわらない柔軟さも必要だと考えます。
例えば、今私がやっている『キャリアコーチ』という仕事・職業も最近認識されてきたものですので、5年以上前にこの仕事をするキャリアを描くことはむずかしかったと思います。自分にとって天職といえるような仕事は、現時点では世の中にない、つまり自分で生み出せる可能性もあります。そのため職種ベースで具体的なキャリアゴールを描くよりは、自分の価値観や強み・個性などを正しく認識し、そこに沿った選択と行動をし続けていくことが大事だと考えています」
転職を志す30代ビジネスパーソン向けに、メッセージをもらった。
「目の前のことにがむしゃらに取り組み、成功も失敗もたくさん経験した20代を経て、30代はこれからのキャリアの方向性が決まってくる転換期といえます。20代の頃にやってきた延長線上でいくのか、思い切って新たな挑戦に踏み出すのか、ライフイベントとのバランスはどうするのか、考えなければいけないことがたくさんあっても、日々忙しくて後回しにしてしまう人も多いのではと思います。
そんなときは、ぜひ一度立ち止まってゆっくり自己分析とキャリアデザインをしてみることをおすすめします。ひと昔前よりもキャリアの選択肢は格段に増えていますので、ご自身が自分の可能性を信じて行動することで、きっと人生・キャリアがよい方向に向かっていくはずです」
賃上げなどを受け、転職の機運が高まっている世の中だが、安易に動くのではなく、改めて自分のキャリアプランを練り直してみるところからはじめてみるのがよさそうだ。そしてトレンドを押さえながら、先入観にとらわれず、幅広い選択肢を持って転職活動を進めていきたい。
取材・文/石原亜香利
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