リクルートからスタートアップ(※)への転職動向をまとめたレポートが到着したので、その概要をお伝えする。本文解説はリクルート スタートアップ領域専任コンサルタント 新堂 尊康氏が担当している。
※ 経済産業省などの公表資料では、スタートアップの要件を「設立10年未満の非上場企業」としている。『リクルートエージェント』での分析にあたっては、「株式未公開」で、分析対象期間に「設立10年以内」だった企業を抽出。このうち、大企業の関連企業などを除外した企業を分析対象とした。
総論:スタートアップへの転職は増加の一方、求人の伸びには追い付かず
日本の経済成長や雇用創出、社会課題の解決の担い手として、スタートアップへの期待が高まっている。政府はスタートアップの育成を「新しい資本主義」の実現に向けた重要施策と位置付けており、2022年には「スタートアップ育成5か年計画」を発表。5年にわたる官民による支援の全体像を示した。
2024年の「骨太の方針」にも、スタートアップへの支援の方向性が盛り込まれている。
アメリカでは新興の企業が経済成長をけん引しているが、日本での「ユニコーン企業」(企業価値10億ドル超の非上場企業)の創出スピードは遅く、世界に差をつけられている。
こうした状況を受け、政府を挙げてスタートアップが速く、大きく育つ環境をつくろうとしていると考えられる。
「スタートアップ5か年計画」の柱の一つには、「人材」が挙げられている。起業人材の発掘・育成はもちろんだが、設立後のスタートアップに人材がなかなか集まらないことも、課題に挙げられている。
スタートアップへの労働移動は足元でどのような状況にあるか、『リクルートエージェント』でのスタートアップへの転職者数と、スタートアップの求人数を分析したグラフが以下になる。
転職者数は2015年度を1とした際、2023年度は3.1倍と伸長しており、人材がスタートアップへ移りつつあることがわかる。一方、求人数は6.8倍だった。スタートアップの人材へのニーズに、転職者数が追い付いていない状況が表れている。
■スタートアップは自社に関する情報の透明化を図り、魅力を訴求することが重要
求職者がスタートアップへの転職をためらう背景には、企業風土や賃金、働き方などに関する不安があると指摘されているが、スタートアップに抱かれがちなイメージと実情は異なる。
例えば若い世代ばかりが働くイメージを抱かれることが多いが、実際にはスタートアップで働くミドル・シニア層も増えている。賃金の面では大企業に遜色ない報酬を支払う企業も多くなっており、柔軟な働き方を実現して優秀な人材を迎え、定着を図る企業も多い。
スタートアップは未上場のため、IRなどの情報開示が乏しくなってしまう側面がある。求職者の不安を解消するためにも、スタートアップには自社に関する情報の透明化を図り、魅力を訴求することが重要と言えるだろう。
スタートアップは大企業と比べて規模が小さく、急速な成長を目指すため、一人当たりの裁量が大きく、仕事の幅が広いのが特徴だ。だからこそ、事業や会社の急成長に、自身がどんな役割を果たしているか実感しやすいのだ。
また、事業や制度が整い切らない状況であるがゆえに多様な仕事を任されることで、これまでになかった経験を積める機会も多く、成長機会を得やすいという魅力もある。
求職者からの相談を受けていると、「今勤める会社での自身の存在感について物足りなさを感じている」「今の経験やスキルでは、将来のキャリアが見通せない」といった声をよく聞く。
スタートアップは新しく、社会課題を解決し得るビジネスを展開する企業だからこそ、自らの仕事に対するやりがいも感じられる。こうした思いを抱える人にとっては、スタートアップへのチャレンジが、不満や不安を解消するきっかけになるかもしれない。