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京都大学と住友林業が開発した世界初の木造人工衛星「LignoSat」に秘められた驚くべき能力

2024.06.12

木造の人工衛星――果たしてそんなものが成り立つのか。今回はNASA(アメリカ航空宇宙局)もJAXA(宇宙航空研究開発機構)も、露ほども想像できなかったものを日本人が作り出した話である。

5月30日、京都大学と住友林業が共同開発した世界初の木造衛星「LignoSat(リグノサット)」の完成発表会が京都大学内の益川ホールで行われた。6月4日にJAXAに納入後、予定では10月にはISS(国際宇宙ステーション)から宇宙に放出。木造人工衛星の運用がはじまる。

昨年7月に@DIMEで紹介した、宇宙空間での木材の曝露試験について、取材した住友林業 筑波研究所住宅・建築2グループ マネージャー苅谷健司さん(54)に、今回のミッションの開発の舞台裏を解説してもらった。苅谷さんは今回のプロジェクトの初期から関わり、木造人工衛星を開発に至るまでの一部始終を熟知している。

住友林業株式会社 筑波研究所住宅・建築2グループ マネージャー苅谷健司さん

宇宙空間で10か月間さらされると木はどうなる?住友林業が挑む「木造人工衛星」の可能性

木で造られた衛星――本当にそんなものが可能なのか。NASA(アメリカ航空宇宙局)もJAXA(宇宙航空研究開発機構)も、宇宙で木を使う発想はどこにもなかったが――...

木材は宇宙空間に向いているのではないか

そもそも木造人工衛星の開発のきっかけは宇宙飛行士の土井隆雄氏が2016年に京都大学の特定教授に就任したことだった。

人間は大昔から木と共に進化してきた。火星に人類が移住するなら、樹木がなくてはならない。火星に植林をして育った木で木造住宅を造ろう、自らの講座を通しての土井隆雄特定教授のそんな発信が、研究者たちの間で想像を広げていく。

「木材の一番の“敵”は湿気にカビ、微生物だが、宇宙にはそれらが一切ない」

「むしろ、宇宙で木は長持ちするかもしれない」

2020年当時、何千もの小型人工衛星を結んで、高速でインターネットサービスを提供するメガコンステレーションが実現しようとしていた。しかし、アルミニウム等を使った人工衛星は役目を終えると、大気圏に突入し燃え尽きる際に微細な粒子を放出する。

現在、宇宙空間で不要となった宇宙ゴミ、スペースデブリは1cm以上で100万個、1mm以上で1.3億個以上と推定され、社会問題化しつつある。

「木は大気圏に突入し燃え尽きても、炭素と酸素と水素に分解され、宇宙環境に悪影響を及さない」

「木は耐久性も強度もある。宇宙環境に優しいことを証明するために、小型の木造人工衛星を制作してみてはどうか」

世界初の木造のキューブ型人工衛星は、そんな話し合いから誕生した。木質空間が人間に与える影響等について、十数年前から共同研究を行ってきた苅谷健司たち住友林業のスタッフも、「面白い取り組みだ。夢がある。是非やりましょう」と、賛同する。

宇宙の曝露試験、木材の驚くべき結果

木材を宇宙空間にさらすと、どのような変化が生じるのか? 

寸法が変化しにくく、割れにくい、ダケカンバとホウノキ、ヤマザクラを住友林業の保有林から採集し、これら6cm弱の長さの木材をアルミのパッグに収納。ISSの日本の実験棟「きぼう」の船外に木材を置く、曝露試験を実施した。2022年のことである。苅谷健司は言う。

「ISSが周回する地上400kmの軌道には大気はほとんどありませんが、原子状酸素はたくさんあります。それらに侵食され、表面がやすりで削ったように、ザラザラになるかもしれないと予想したのですが……」

294日間、宇宙空間にさらされ、回収された木材は拍子抜けするほど、見た目に何の変化もなかった。紫外線や放射線等の影響や、木材の化学変化についての詳細は調査中だが、「人工衛星で使用しても、ほぼ問題なし」という結論を得た。

宇宙曝露した木材の試験体 写真/京都大学

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