裁判所のジャッジ
高等裁判所
「先輩Yと会社は、Xさんに対して224万円を払え」
地裁では167万円しか認められなかったのですが、高裁では60万円ほどアップしました。先輩Yの悪行は以下のとおりです。
▼ 先輩Yの責任
先輩YはXさんに対して以下のようなパワハラをしました。
■ さらし者に
先輩Yは「Xさんの作成する書類に間違いが多い」との理由でXさんにお仕置きをしました。改善すべきことを紙に書かせて他の従業員の前で【毎朝】朗読させるというもの。
■ 退職してもらうからね
先輩Yは期限を守れなかった場合には退職すると紙に書かせて、その後、期限を守らなかったことを理由に退職を迫った
■ 頭を殴ってメガネを壊す
それから3か月ほど、いつ退職するのかと迫って頭を叩く
裁判所
「社会通念上許容される業務上の指導を逸脱したパワハラだ」
■ マメ知識
退職を強要されれば慰謝料を請求できます。ユー退職しない?レベルの退職勧奨ならセーフなんですが。線引きは難しいところです。良ければ下記の記事もご覧ください。
本題に戻ります。ほかにも以下のような嫌がらせを。
・名札を取り上げる
・Xさんの使用しているモニターをわざと壊し、モニターが壊れたことを会社に報告させる
・謝罪のために土下座を求める
裁判所
「これらの行為を正当化する理由はない。パワハラだ」
――Xさん、不服そうですが……。
Xさん
「ほかにもあるんです。先輩Yは私の後ろに座っていたのですが、椅子の背を私の椅子にぶつけてくる嫌がらせをしてきたんです」
裁判所
「ん~……、証拠がないです」
というわけで、録音しましょう!証拠がなければ裁判所は冷徹です。
今回のケースでいえば、仮に常時録音していて「ちょっと~椅子ぶつけないでくださいよ~」「いてっ!」という発言が何度も録音されていれば、パワハラ認定してくれた可能性があります。
パワハラ上司と接する時は常時録音をオススメします。
▼ 会社の責任
裁判所は、2名の上司がパワハラを放置したことは違法と判断。くわしくは以下のとおりです。
■ A所長
XさんはA所長に助けを求めていたんです。
「先輩からの暴言や暴行があるんです」という相談を持ちかけたんです。しかしA所長は「あなたのほうが悪い」といって何の対応もとりませんでした。
■ B所長
B所長はXさんの隣の席に座っていました。自分の隣の席で先輩YがXさんの頭を叩くなどの暴行を何回もしていたのですが、スル~。
裁判所
「A所長とB所長は、先輩YがXさんに対して暴力を振るっていることを認識できたので、Xさんが安全に業務にあたれるように先輩Yの暴力を止めさせる対応を講じる必要があった。それにもかかわらず何の対応もとらなかった。よって会社には安全配慮義務違反があったと認定する」
というわけで、先輩Yだけでなく、会社に対しても224万円払えと命じました(224+224ということではなく、連帯責任なのでどちらかが224万円払えばOKということです)。
■ ほかの判例(パワハラをスルー)
パワハラをされている人から相談を受けたのに上司が見て対応しないと、慰謝料請求を命じられることがあります。コチラもご覧ください。
■ ダメ押し
あと、この会社は、Xさんがケガをしたのに労働基準監督署から指摘を受けるまでワザと申告しなかったんです。
会社が申告を遅らせたので、Xさんは医療費の一部を自己負担しました。しかも申告書類には、先輩Yの言い分に添った内容だけが書かれており、Xさんの言い分が反映されていなかったんです。
これらを見て裁判所は「慰謝料10万円払え」と命じています。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな~」があれば下記URLからポストしてください。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。法律コンテンツを作ることが専門の弁護士。
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