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「仕事に対する夢はどんどん幻想へ」竹田ダニエル氏が語る、アメリカと日本で異なる働く人の価値観

2024.03.10

日本における「Z世代」という言葉への違和感、アメリカにおけるZ世代の現状を発信している、竹田ダニエルさん。2024315日に発売する『DIME』では竹田ダニエルさんの新連載『Z世代の〈はたらく〉再定義』がスタート。今回のインタビューの後編では、アメリカと対比をしながら、日本における「働き方」についてお話を伺った。

前編はこちら

©OTANIJUN.

竹田ダニエルさん

1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。202211月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』(講談社)を上梓。そのほか、現在も多くのメディアで執筆している。

日本は「好きなことを仕事にすること」を美化しすぎている

――本書(『#Z世代的価値観』)の「仕事≠人生」的な働き方の部分について、お話を伺えますか?

そういえば先日、日本でとあるパワハラに関するニュースが出た時、シンガポールの友達から連絡が来ました。「これどういうこと?なんでパワハラをされた段階で辞めないのか」と。日本の「途中で辞めないことが美徳」というカルチャーが、全然わからないようで。この〝辞めない美徳〟は、アジア全体で共有されている価値観ではなく、その友人も「(アジアに属する)シンガポールでも、パワハラが起きたらすぐに辞める」と言います。

日本には辞めたら負け、諦めたら負けみたいな風潮がありますよね。最近では、ひとつのレールにずっと乗り続けないキャリアパスも聞きますが、とはいえ、割と固定された概念で生きる人が多いと思います。辞めて一度レールを外れてしまったら、一から始めるのもかなり大変だと思いますし。

――働く環境という点で言うと、アメリカの状況はいかがですか?

アメリカでは、新卒採用という概念が基本的にありません。就職活動という概念自体もある意味無法地帯になっていて、何十件も応募して面接を最終まで8回くらいしたけれど、返事がなかったとか、普通によくある話です。採用システムが統一されてないから、何を期待したらいいのかもわからないし、学歴やスキルがあったとしても採用されない例もたくさんある。レイオフ(一時解雇)も頻繁にあるから、大手のテック企業に就職できても、いつ首を切られるかわからない。そういうことが平気であるので、同じ会社でずっと働き続けることは全然普通じゃないし、仕事がない状況も別に珍しいことではないんです。その働き方の違いは日米ですごく大きいと思います。

『「転職」に関する5ヵ国(日・米・英・独・韓)比較調査』(2023年6月Indeed調査)を基に編集部が作成

2923年6月のIndeedの調査によると、転職経験率は、日本59.7%に対し、イギリスは92.7%、アメリカは90.1%、ドイツは84.2%、韓国は75.8%で日本は最下位となった。一概によい悪いは判断できないが、日本の転職経験率の低さは雇用が安定していることが理由のひとつに挙げられる。

――日本では「やりがい」を仕事に求める方も多いと思うのですが、竹田さんはそのことについてどう考えますか?

「好きなことを仕事にする」というのは、ちょっと美化されすぎですよね。例えば自分の話で言ったら、執筆はメインの仕事じゃないですけど、書いているときはめちゃくちゃ嫌なわけです(笑)。文章を書き始める作業がとにかく苦手で。だけど、依頼もらうことは嬉しいし、こういうふうに取材を受けることも、最終的にそれがかたちになった時に嬉しいし、やってよかったと思える。それは物を作る人は誰でも同じだと思うんですよね。例えばアーティストで考えても、実際は楽しいことばっかりじゃなくて、制作段階や金銭面で大変なこともたくさんある。好きとかやりたいという気持ちを細分化していったときに「みんなに好きって言われたい」という承認欲求がある人もいれば、単に作っている時間が好きという人もいる。「好きなことを仕事にしたい」理由を本人が細分化せずに「やりたいことなのに嫌だな、つらいな」と思うと、身動きが取れなくなってしまうのかなと思います。

――アメリカでは、そういった仕事へのやりがいについてどのような違いがありますか?

アメリカだと、とりあえずお金が必要だからやる。その仕事内容は好きじゃなかったとしても、そのお金で趣味や旅行に費やすと、割り切れている人もたくさんいます。また、対面でもSNSであってもリアルな話を共有するカルチャーがあるので、仕事が楽しくないとか面白くないって口に出すことは、悪いことじゃない。普通のことで、誰もが経験することであるのに、日本では良いか悪いは別として、仕事のやりがいをすごく大事なものとして人生の中心のようになっている。それは雇用がアメリカに比べて、とても安定しているという良い側面も反映していると思うんですが。

――たしかに、日本では仕事に関してリアルな話を共有することは少ないかもしれませんね。

例えば、学生時代の部活動において「バレーボールの練習はつらいけど、楽しいし好き」と言えるような価値観と同じだなと思っています。そういう団結力とか連帯責任とかが学生時代から刷り込まれているから、大人になっても「やりがいを感じる仕事が好き」「仕事は辛くても頑張る」みたいな文化になると思うんです。もちろん、仲間意識や「居場所」があるという面ではすごくいいなって思うこともあれば、パワハラとかで辞められないっていう気持ちにも繋がってくると思うし、土壌の違いだと思うんですよね。アメリカでは、仕事は淡白なものというか、感情労働はほぼゼロに近いところが多いし、「職場の人と仲良くしてはいけない」とか言われるんです。「友達じゃないし、どうせあなたは(誰かライバルの出世のために)蹴落とされるんだから」って。

出世レースのような「曖昧な競争」に参加するかしないか

――竹田さんご自身の働き方についてはどうですか?

アメリカ的な考え方でいうと、「自分はこの分の給料しかもらってないからその仕事しかしない」ってよく言います、みんな。もっと質の良い仕事や長時間労働を強いるなら、ちゃんとその分のお金を払うべき、そうでないと全員にとってもアンフェアだ、という考え方から来ています。

私の執筆の仕事の話でいえば、それをメインにしてしまったら、暮らしていくためにどんな仕事も引き受けなきゃいけない。でも、お金をもらえるからといっても、物を書くことは精神的にも疲れる。だから、研究職というメインの仕事があるからこそ、やりたくない執筆、自分の倫理に合わない仕事は受けなくてもいいという選択肢が残る。それはすごく大事なことだと思っています。今のところ自分のやりたいと思うことだけを、健康的に続けられていると思いますね。

――日本ではなかなか「断る」ことに難しさを感じる人もいますよね。他に、日本特有の仕事の考え方はありますか?

「レースに参加するかしないか」がすごく大事な話だと思っています。どの会社でもそうだと思うんですけど、自分はお給料をもらうだけでいいのか、それとも出世レースのような、曖昧なレースに参加するのか。例えば、タワマンで暮らして、結婚して、子どもを生んで、子どもを進学塾に入れて、良い大学に入れるために稼ぎ続けなきゃいけない。一部の界隈に存在する〝競争〟に参加するかどうかは、誰かが決めたことじゃなくて自分が決めることじゃないですか。それって外の人から見たら価値があるものと思えないことも多いわけですよね。でも、それに気付かないままストレスを抱えてしまう。それは自分にもあることですが。

――たしかに、選択肢があって、それを自分が選んでいるんだと考えられている人は少ないかもしれません。知らず知らずに競争に入ってしまっているというか。

でも、その競争に勝ちたいっていう気持ち、例えばアーティストが1位になりたい、グラミー賞を取りたいとかってすごい活力だし、お金持ち、有名になりたいモチベーションのある人ってむしろ羨ましいなと思うくらい、持続可能なエネルギーだったりするわけじゃないですか。でも、自分にあまりそういうのがなくて。そうするとやりがいとか、何かそういう曖昧な基準になってきちゃうのは悩みでもあります。競争に参加するかは、人によってはモチベーションを維持するために必要なことなのかもしれないし。さらに今の時代は、InstagramなどのSNSで、(美しくみえるように)フィルタリングされた情報しか出てこないから、周りの人がすごい上手くいっているように見えてくる。それを目指していくならそれはそれでいいし、自分がどういうモチベーションのスタイルなのかは大事な考えなんじゃないかなって思います。

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