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竹田ダニエルが語る「Z世代的な価値観」とは?都合良く解釈されている日本のZ世代論の問題点

2024.03.09

日本独自の世代論とアメリカで生まれた「Z世代」を同列に語るのはナンセンス

――日本での「Z世代」という言葉や概念の扱われ方についての違和感はどのような部分にありますか?

日本ではバスワードというか、議論を生むし目を引く言葉ですよね。日本には「昭和」「平成」という年号がありますが、アメリカにはそれがありません。例えば「昭和生まれで括るな」と思っていても昭和生まれなのは事実ですし、共通した社会現象を経験していますよね。それで自己アイデンティティを生み出せる人もいるし、そうでない人もいる。アメリカでは、それと似たようにZ世代やミレニアル世代が社会学的に研究されています。一方、日本の場合は、「ゆとり世代」「さとり世代」、最近だと「コロナ世代」とか連続性のない括りを後付けされている中、唯一「Z世代」という言葉だけをアメリカからの輸入として使っているのも違和感があります。

――なるほど。言葉だけを輸入しある種、都合良く後付けしている印象があると。

アメリカでは、世代論は個人の話ではなく経済・政治・歴史単位での話として展開されています。例えば、「ブーマー世代がこういう経済状況を作り上げたからミレニアル世代がこういう影響を受けている」というような感じです。一方、日本の場合「高齢者、大人VS 若者」のように個人の話として対立させているような感じがする。若者が自分たちの手で社会を変えられる実感もない中、〝面白い宇宙人〟みたいに消費されることに、嫌悪感を抱く人もよく見かけます。日本ではバラエティー番組や広告でもZ世代というアイデンティティが、まるでその人のすべてを表しているかのような使い方をするから、Z世代と使っている人を見ると「彼らは『Z世代』をアイデンティティにしているのか」と反応する人が出てくるのも仕方がないですよね。

――メディアの影響力は日本とアメリカで違いがありますか?

メディアの影響力は、日本の方が大きいと思っています。アメリカの場合、Z世代の若者は人口も多いし、そもそもSNSなどのインターネットを司っている。だから、ネット上での発言力がすごく大きい。大人が勝手に定義づけた都合の良いZ世代とかは別にどうでもよくて、本人たちが「私たちの世代はこう」っていうのを発言できるような状況に置かれているのが違いだと思いますね。

――一言で表すのは難しいと思いますが、Z世代的価値観とはどのようなものなのでしょうか? 

表層的な話をすれば、例えば環境問題を身近に感じていて、サステナビリティに関心があるとか、そういう話になってくると思うんですが、根本的な話をするには背景を説明する必要があります。実は、アメリカでは『アメリカ=消費と労働と夢で成り立っている自由の国』という概念がもう残っていません。頑張って我慢して働けば、いろいろなものを買って、家を買えて家族も増えて、老後を楽しめるという理想像が、残念ながらもうほぼ存在しません。

例えば、コロナの対応にしても自分たちの健康や生活よりも、政府は経済を取る。自分たちは国民として人権が大切だと思われていない。医療保険も機能しないし、学生ローンも膨らむばかり。政府が銃規制をしないせいで、幼稚園や小学校の段階で、校内銃撃事件が起きたときの訓練もしなきゃいけない。昔は外で遊んで勝手に帰ってこられたのが、今だったら治安の悪さを心配した親からスマホでずっと監視されているし、そもそも遊ぶ場所がないから外にも遊びに行けない。自由もなければ未来に対する希望もない状況ない。その「約束されたアメリカンドリーム」と現実の乖離の中で生まれる変化こそが、Z世代的価値観の反映だと思っています。絶望の未来しか見えないアメリカの若者たちが、「サバイバル」を必要とする社会で今後どういう価値観を形成していくのか。常にその価値観も変わり続けるし、〝流動的である価値観〟っていうのがZ世代の価値観かもしれないと思っています。もちろん、今後新たに世代が誕生するとともに、これがZ世代特有のものなのかもまだわかりませんが。

©Bob Korn/ShutterStock

2018年に起きたフロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件に対するデモの様子。2022年にも小学校で同様の事件が発生している。

――Z世代が抱える矛盾についても本書で言及されていましたね。

選択肢の増加とともに情報も増えたから、個人が判断しなきゃいけない部分が増えました。選択も常に情報に左右されていると言えますよね。極端な話ですけど、例えば昔は「タバコには健康被害はない」と言われていたわけじゃないですか。今もタバコを買う選択はできるけど、科学的にも検証されていて、法律も変わって、健康被害に関する情報が増えたわけです。それと同じように、服を買うにしても、昔だったらその服がどこで作られているかと考えなくても良かったものが、スマホでスクロールしていたら、発展途上国で子どもたちがこんなひどい劣悪な状況で働かされている、ゴミがどんどん海沿いに蓄積している、みたいなことがリアルに見えるわけですよね。

――1次情報に触れる機会が圧倒的に増えていると。

情報源がテレビか新聞、雑誌に限らず、インターネットで第1次情報が流れてきます。それを大げさに言えば「学び」と言っていますけど、自分たちでどういう選択を取るか。どういう情報を得て、自分をどうエデュケートするかによって変えることができるっていう話だと思います。情報のメディアプラットフォームが増えるにつれて、自分はどういう学びをしたいのかを考えなくてはいけないし。その学びの結果、どのような選択肢やライフスタイルをとっていくのか、アイデンティティと「行動」が必然的に連動していきます。例えば、ヴィーガンで自分のジェンダーやセクシャリティも流動的で、環境問題の関心があって、デモにも参加していて、そういう自己アイデンティティの若者も増えている。単にリベラルだからとか流行っているかという単純な話ではなく、「自分のサバイバル」に必要だから、そのような人生を生きること、そのようなコミュニティに属することを選択しているのです。

 後編へ続く

 

竹田ダニエル『#Z世代的価値観』(講談社)
マーケティング用語じゃない。これはまったく新しい「世代論」。絶望的な世界に生まれたZ世代が「愛」と「連帯」で価値観の革命を起こす!お金、健康、人間関係、SNS、仕事。Z世代的価値観で分析する「私たちのいま」。

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DIME20245月号より竹田ダニエルさんの連載がスタート!

2024315日に発売する『DIME』本誌にて竹田ダニエルさんの連載『Z世代の〈はたらく〉再定義』がスタートします。「仕事」とは何かという普遍的な問いをZ世代的な価値観から、もう一度考え直すエッセイです。アメリカで今起きている仕事や働き方に関するトピックを紹介しながら、Z世代がどんな価値観を持っているのか、そのムーブメントの裏にはどんな理由があるのか考察していきます。

職場での世代間ギャップを抱える管理職世代から、実際に「Z世代」に該当する20代前半のビジネスパーソンまで、働き方をもう一度考え直すきっかけになる連載です。乞うご期待!

取材・文/久我裕紀 

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