2024年1月20日、月面着陸
完成したソラキューはJAXAに納め、テストが繰り返された。ソラキューを搭載した月着陸実証機スリムが、H2Aロケット47号機で打ち上げられたのは昨年9月7日。ベテラン技術者の米田陽亮は種子島に足を運び、種子島宇宙センターから打ち上がったロケットを見送った。
赤木謙介は天候等で何回か打ち上げが延期されたことと、開発の月日を思い、「やっと打ち上がった……」、宇宙に旅立つライブ映像に安堵を覚えた。
月までの旅路は4カ月以上だ。きちんとスリムから分離して月に放出されるだろうか。月面で手のひらサイズのソラキューが、岩の間に挟まってしまうことはないか、スタッフの心配事は尽きない。
2024年1月20日、午前0時20分ごろ、スリムは狙っていた月面にほぼピンポイントで着陸。着陸直前にソラキューとLEV‐1は月面に放出。ソラキューが撮影した着陸後のスリムの画像を、ブルートゥースでLEV‐1に送信。LEV‐1の送信機能によって、画像は地球に向け送信された。
月のウサギの耳の付け根に――
1月25日のJAXAの記者会見では、ソラキューが撮影した月面に着陸したスリムの鮮明な画像が公開された。
『SORA‐Q』が見事撮影し、送信した月面の画像。スリムもしっかり写っている。
「画像を見た瞬間、呼吸ができないほどインパクトを感じました」
画像を目にした赤木謙介は言葉を続ける。
「画像にはスリムはもちろん、月面、宇宙空間、ソラキューの銀色の車輪も写っていた。見たかったものすべてが写っていた。ソラキューは本当に月に行ったんだと……」
画像にくぎ付けになった米田陽亮は、逆立ちの状態で着陸したスリムに少し驚いたが、鮮明な画像にソラキューのミッションが、想像以上に成功したことを実感した。
米田陽亮は言う。「月のウサギの耳の付け根あたりにソラキューがいるんだなぁと、満月を見るたび、味わい深いものがあります」
ワークショップ等で、ソラキューと宇宙のことを語ってきた赤木謙介は、ソラキューが撮影したスリムの画像を見て、子どもたちが家族や友だちとどんな話をしているのか、その声を聞きたいと思っている。
おもちゃ会社が制作した世界初の完全自律ロボット、月面を走行しスリムの撮影を達成した、ソラキューの1/1スケールモデルの発売は昨年9月2日、現在も2万7500円で発売中である。
取材・文/根岸康雄