シリーズ「イノベーションの旗」。時代の変化が加速する中、付加価値のあるものを生み出すために、企業にとってビジネスパーソンにとっても、技術革新は最重要課題である。
JAXAの無人小型月着陸実証機、『SLIM(スリム)』は今年1月20日午前0時20分ごろ、月の赤道南側へのピンポイント着陸に成功。月面のスリムの鮮明な画像に驚きの声が上がった。
月面着陸したスリムを撮影したのは、直径約80mm、重さ約250gの『SORA‐Q(ソラキュー)』という超小型ロボット。スリムに搭載された球型で手のひらサイズのソラキューは、着陸直前に月面に放出。形を変えて移動し、着陸したスリムの撮影に成功した。
超小型の撮影ロボットを開発したのは、玩具メーカーの株式会社タカラトミー。宇宙事業で世界初のミッションをおもちゃ会社が成し遂げたわけだ。胸を躍らせる話ではないか。
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サイズは手のひらサイズ。タカラトミーの変形ロボット『トランスフォーマー』などの技術が活かされている。
開発の秘話をSORA‐Qプロジェクトリーダ―の赤木謙介さん(42)と、ベテラン技術者の米田陽亮さん(63)に聞いた。今回はその後編である。
前編はこちら
ソラキューの動き方を変える必要がある
手のひらサイズのソラキューは球型と決まった。着陸直前に月面に放出されたとき、球なら岩の上に落ちてもダメージを軽減できる。月面でソラキューは変形ロボットの玩具、『トランスフォーマー』に用いた変形の技術を応用し、球型の真ん中が割れてカメラが露出して、両サイドの外殻が車輪の役割を担い月面を移動する。
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ボール型がパカッと割れて変形し、写真の形に。月面を走行しながら搭載されたカメラで周囲を撮影する。
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同社の変形ロボット『トランスフォーマー』などの技術が応用された。写真は『PF SS-05 オプティマスプライム』のロボットモード(左)とビークルモード(右)。
問題はどう月面を移動するかである。凹凸のある月面で30度の傾斜は乗り越えたい。それには試験用の砂が、崩れるくらいのパワーで登らないと踏破できない。だが、最終的なJAXAからは約80mm×80mm、重量は約300g以下と指定されている。パワーを得るためモーターを増やすのは避けたい。さらに月面を覆うといわれるレゴリスという微細な粉末状の堆積物に、雪道の斜面でノーマルタイヤが空回りするような状態に陥ることも危惧される。移動するソラキューのお腹が月面につくと、止まってしまうという欠陥も浮上した。
さて、どうするか。開発を担った米田陽亮と開発責任者の渡辺公貴(現同志社大教授)たちスタッフは知恵を絞った。
「ソラキューのサイズでは、これ以上のパワーアップは難しい」
「月面につかないように、お腹に上下の振動を与えるとか……」
「お腹を別の部品にしてジャッキのように持ち上げるか……」
「そもそもパワーに頼るのではなく、ソラキューの動き方を変えなきゃいかんのじゃないか……」