アルミも技術革新で鉄のような強度に
協業には結びついていないが、大学の研究室では、将来有望な基礎研究が進行している。そんな一つの例を松谷卓也は語る。
「芝浦工業大学、芹澤愛先生の芹澤研究室では、中低温・高圧の水蒸気でアルミニウムを表面処理すると、水酸化物の皮膜でコーティングされ、腐食の進行が100~1000分の1になり、同時に強度も2倍になるという研究が進んでいます。これが実用化されると、鉄が主体だった自動車の材料もアルミなどの軽金属に置き換わっていく。自動車の燃費効率が向上し、二酸化炭素の排出量が削減につながります」
一方で欧米に比べ、日本のイノベーションが脆弱というのも現実である。既得権益に固執することで技術革新が阻害され、その結果、労働生産力が低い。給料が上がらない。国力低下を招いているという指摘が議論されている。
実は東京は協業に最適な環境都市
松谷卓也はその点を踏まえて、言葉にする。
「日本は企業と大学の研究室との人の交流とか、企業間の人の交わり、あるいは転職も含めて人材の流動性が低い。欧米に比べ各セクターが閉鎖されていて交わりが少ないので、マインド的にも社会の仕組み的にも、既存の産業構造を変えようとするダイナミズムが生まれにくい。
日本では社会的に成功すると、妬まれたりバッシングを受けたりする風潮がありますね。日本は大きな組織を守ろうとする力が強いのでしょう。
でも日本の強みはモノ作りです。モノ作りにイノベーションは必要不可欠です」
近未来は“モノのインターネット”と称されるIOTが飛躍的に進化する。モノとインターネットの融合は、モノ作りに長けた日本にとって、好機といっていい。
ILSに参加するスタートアップは約850社。スタートアップと大手企業との協業は加速するだろう。
日本は、東京は本来、イノベーションの先頭を走っていてもおかしくない都市だと、松谷卓也は語る。
「東京は日本の大企業の本社が集中する世界でも類を見ない都市です。スタートアップと大企業が出会いミーティングをし、協業によって新しいものを生み出すには絶好の場所なんですよ」
既得権益への固執、各セクターの人的な流動性の低さ、大きな組織を守ろうとする保守的な傾向――、それら固い殻の中に、実は日本人のイノベーション、技術革新は詰まっている。
待ったなしで、殻を破らなければならない、日本は今、そんな局面に立たされているのだが――。
取材・文/根岸康雄