元日銀総裁に“紹介状を書いてください”
「知人の紹介で、元日銀総裁の福井俊彦さんに面会する機会を得たんです」日本はスタートアップと大企業のマッチングが出来ず、スタートアップの成長は欧米と比べて周回遅れだ。大企業との協業が実現すればスタートアップは伸びるし、大企業にも大きなメリットがある。今、それをやらないと日本は経済的に負け組になってしまう。
松谷はそんな持論を展開し、福井元日銀総裁に持参した上場企業の上位100社の会長、社長、副社長のリストを見せて、「この中でお知り合いの方に、紹介状を書いていてください」と、頭を下げた。
「わかった」福井俊彦は松谷の趣旨を理解し、紹介状を認めてくれたのだ。その数は数十社に及んだ。元日銀総裁の紹介状は強力だった。「福井さんの紹介なら」と、大企業のCEOクラスと松谷卓也は面会の機会を得る。松谷の趣旨に賛同した大手企業30社ほどの最高経営者が後押しをしてくれ、2014年に第1回のILSが新宿で開催された。
2023年12月、11回目となるILS(イノベーション・リーダーズ・サミット)が開催された。来場者と視聴者を併せ、2万人以上が参加した。
深部体温測定器付きスポットクーラー
スタートアップと大企業のマッチングの場を提供し、両者の協業を促すILSは今年で11回を数え、これまで数々の製品を世の中に送り出している。
直近で印象に残る製品を松谷卓也に上げてもらうと――、
身体の深部の体温をセンシングする技術を持つスタートアップと、建設現場向けのスポットクーラーを製造する大手企業のマッチングでは、建設現場向けの新たな機能を加えたスポットクーラーの開発につながった。
スポットクーラーを製造する大手企業は、スタートアップの身体の深部の体温センシング技術を自社製品にインストールした。それによって、深部体温測定機能付きのスポットクーラーの開発につながった。
例えばフォークリフトの作業者には夏場の熱中症対策として、スポットクーラーが有効だ。熱中症を引き起こす要因の一つは、身体の深部の体温が上昇だ。深部体温測定機能付きスポットクーラーは、作業員の体温をセンシングし正常値を超えて上昇するとアラートが鳴る。それに応じて休憩を取る等、熱中症を未然に防げることができるのだ。
11年を経て、ILSに参加する大企業は120社ほどに増えた。協業で開発した製品に、一般消費者向けのものはほとんどない。大企業がスタートアップや大学の研究室に、基礎研究から得た技術を求める、それはなぜか。欧米に比べ日本はイノベーションに乏しいと言われる。日本の産業構造を見据えたとき、その原因は何か。
明日の配信ではこれらを解説し、さらにスタートアップが持つイノベーションを大企業がインストールすることで、誕生したユニークな製品の数々も紹介する。
取材・文/根岸康雄