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2兆円市場といわれる〝宇宙の掃除〟に挑む!日本のスタートアップ、アストロスケールの創意工夫

2023.12.05

新シリーズ「イノベーションの旗」、今回は宇宙ゴミ(宇宙デブリ)の回収を目指すスタートアップ企業の話である。

宇宙デブリ(宇宙ゴミ)とは宇宙空間ある不必要な物体のこと。運行を終えた人工衛星、故障した人工衛星、打ち上げロケットの上段、爆発や衝突で発生した破片などで、現在、地上から追跡できる10cm以上のデブリで約4万個、1ミリ以上は1億個を超えるといわれる。運用中の人工衛星との衝突など、宇宙デブリが宇宙利用の妨げになる恐れが高まっている。

投資家の期待は高い

株式会社アストロスケール(2013年設立)は、宇宙デブリの除去をメインに、持続可能な宇宙環境を目指す世界初の民間企業である。現在、研究・実験の段階だが従業員は約500名。アメリカ、イギリス、イスラエルなど、世界に6拠点を持ち、累計調達金額はおよそ445憶円。将来的に2兆円産業に成長するともいわれるこの分野への投資家の期待は高い。

宇宙への思い、自社の人工衛星の進展、目指すビジネスを伊藤美樹上級副社長に聞いた。

前編はこちら

アストロスケール上級副社長の伊藤美樹氏。

1982年生まれの伊藤美紀は、高校時代に観た映画、『インデペンデンス・デイ』に登場した宇宙船に魅せられた。日本大学大学院航空宇宙工学修士課程修了後、内閣府の支援プロジェクト、超小型衛星「ほどよし」開発に参加。アストロスケールの創業者兼CEOの岡田光信から、「日本に製造開発拠点を作りたい」と、声がかかると同時に社長就任も打診され、2015年4月、アストロスケール日本法人代表取締役社長に就任した。(現在は上級副社長)

就任してまもなく、粘着剤付きの小型衛星に大型の宇宙デブリを張り付け、除去する構想は実現せず。地上から追跡不能な微小デブリの観測衛星は、ロケットの打上げ失敗で海の藻屑となる。この間、エンジニアを中心に、社員の半数ほどが入れ替わり、将来的に有望な宇宙ビジネスに、夢を託すスタッフの思いはより強固になった。

爆発的に増える小型人工衛星

再度、微小デブリのサンプリングデータを目指す人工衛星に挑戦する考え方もあったが、当時、宇宙ビジネス業界ではコンステレーションビジネスが何社か立ち上がってきていた。

コンステレーションビジネスとは、多数個の人工衛星のシステムを使ったビジネスで、インターネットのアクセスなどに利用される。スペースⅩ社のスターリンクという衛星インターネットコンステレーションは、2023年9月の時点で、3000機を超える小型衛星で構成される。アストロスケール社内では伊藤とエンジニアたちとが、こんな話し合いを続けた。2019年頃のことだ。

「これから打ち上げられる小型の衛星の数は爆発的に増えていきます」

「今後10年ほどで、コンステレーションビジネスのプレイヤーが計画通り、衛星をすべて軌道上に配備すると、小型衛星の数は3万6000機ぐらいになると言われているね」

「衛星の寿命は7年ほど。役目を終えて正常に作動すれば、大気圏に突入して燃やすことができるが、機能不全の衛星はそのまま宇宙空間にとどまり、デブリになっていく」

宇宙空間での“車の牽引”

伊藤美樹は言う。

「宇宙にも“ロードサービス”のようなものが必要だと私たちは考えたんです。不具合を起こしたコンステレーション衛星を回収する。そのためにドッキングプレーというパーツを開発しました」

丸くて薄い板状のドッキングプレートは、打ち上げ前に人工衛星の外側に、簡単に取り付けることができる。プレートは磁石でくっ付くようにできており、不具合を起こしたり、役目を終えた小型の衛星に回収のための衛星が接近、磁石を活用した捕獲メカニズムで衛星をドッキングさせて回収。車の牽引のように衛星を運び、大気圏に落として消滅させ、回収衛星は再び高度を上げ別のデブリの回収に向かう。

2021年8月、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」(エルサディー)が、模擬デブリを宇宙空間に放し、磁気を活用して捕獲する実証試験に成功している。簡単に回収できて宇宙デブリを出さないため、コンステレーションビジネスを担う企業を中心に、打ち上げ前の人工衛星にトレッキングプレートを設置するセールスが、本格的にはじまろうとしている。

2021年2月、「ELSA-d」の打ち上げ前テスト。(提供:アストロスケール)

デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」。(提供:アストロスケール)

二段階でロケットボディーをキャッチ

現在、進行中のもう一つのプロジェクトが、JAXAとともに取り組む大型の宇宙デブリの回収である。日本が過去に打ち上げ、宇宙ゴミとなったロケットのボティーを捕まえる作戦だ。

どうするか。まず衛星が近づき、宇宙空間に長年放置されたロケットの状態を観測し画像に収める。状態を把握したうえで、ロケット回収のためのロボットアームを装備した衛星を稼働させ、大型のデブリを回収するという二段階で作業を遂行する。

既存の大型宇宙デブリは、各国ごとの対応が求められている。このプロジェクトを英国宇宙庁も自国の不要ロケットの除去プログラムとして検討している。コンステレーションに対応したデブリの回収と、既存の大型のデブリの回収が現在、研究・開発が進行中のメインのミッションである。

さらに40憶ドルを超えるビジネスも

伊藤美樹は言う。

「ビジネスとしては、コンステレーション衛星の対応がBtoB、JAXAが打上げたロケットのデブリはBtoG(ガバメント)ですね。現在は研究・開発の段階ですが、2030年のサービス開始を目標にしています」

創業10年を迎えたアストロスケール。伊藤氏の宇宙への挑戦は続く。

さらに、将来的に静止軌道上の衛星のサポートも視野に入れている。地球から約3万6000km離れた軌道上で地球の自転と同じ速度で周回する静止衛星は、通信、ナビゲーション、気象予測など、インフラには欠かせない。

だが、静止衛星を配備するコストは2億ドルを超えるという。静止衛星の交換は莫大なコストがかかるのだ。そこで静止衛星の軌道修正の際のエンジンの燃料補給や整備、修理など、静止衛星の延命を担うミッションも研究・開発中である。静止衛星に対するサービスは40憶ドルを超える収益を生むと推測されている。

宇宙がSFの舞台という世界はすでに遠い昔だ。今、宇宙はビックビジネスにつながる、イノベーションが渦巻く空間なのだと再確認させられる話である。

取材・文/根岸康雄

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