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宇宙ゴミ問題に挑むアストロスケール、30代で社長に就任した女性リーダーの挑戦

2023.12.04

新シリーズ「イノベーションの旗」、今回は宇宙ゴミ(宇宙デブリ)の回収を目指すスタートアップ企業のお話である。宇宙デブリとは宇宙空間にある不必要な物体のこと。運行が終了した人工衛星、故障した人工衛星、打ち上げロケットの上段、爆発や衝突で発生した破片など、現在地上から追跡できる10cm以上の物体で約4万個、1ミリ以上は1億個を超えると推定される。デブリは運用中の人工衛星との衝突など、宇宙空間の活動の妨げになる恐れがある。商用コンステレーション(人工衛星群)の運用が本格化する中、デブリの増加が危惧されているのだ。

2013年に設立された株式会社アストロスケールは、宇宙デブリの除去をメインに、持続可能な宇宙環境を目指す世界初の民間企業である。まだサービス開始の途上だが現在、日本、イギリス、イスラエル、シンガポールなど、6カ所に拠点を構え、従業員は約500名。これまでの累計調達金額はおよそ445憶円。将来的に2兆円産業に成長するともいわれるこの分野への投資家の期待は高い。

伊藤美樹上級副社長に宇宙への思い、デブリ回収の人工衛星の進歩と目標を聞いた。

アストロスケール上級副社長の伊藤美樹氏。

宇宙船に目を奪われて

1982年千葉県生まれの伊藤美樹は、高校時代に観た映画、『インデペンデンス・デイ』に登場した光り輝く巨大な宇宙船に目を奪われ、人工衛星の分野を専攻する。

「大学1年生の頃から研究室を訪ねて、キューブ型の小型人工衛星の制作の手伝い等をしました」

日本大学大学院航空宇宙工学修士課程修了後、内閣府最先端研究開発支援プロジェクトの超小型衛星「ほどよし」開発プロジェクトに参加。“熱と構造”という分野を担い、ロケット打ち上げに耐えられる構造作りに携わった。

就活の時期に、大学の先生から紹介されていたアストロスケールの創業者兼CEOの岡田光信から、「日本に製造開発拠点を作りたい。エンジニアを探している」と、声がかかる。

日本は宇宙ビジネスに適した国だ

伊藤は言う。

「宇宙ゴミの回収なんて無理だよと思うより、宇宙環境の利用が進む中で、誰もやったことがないことを本気でやろうとする点に共感しました。宇宙デブリの問題は避けて通れない。その意味でチャレンジしてみたいと。宇宙のプロジェクトは国の主導が多いのですが、デブリの除去という誰も手掛けていない分野を民間が手掛けることに、将来的な優位性も感じました」

日本法人のスタートメンバーのエンジニアとして入社したはずの伊藤だったが、「社長をやってみないか」と岡田から声がかかる。2015年4月アストロスケール日本法人の代表取締役社長に就任した。

「社長を引き受けることに、もちろん不安はありました。でも、創業者の岡田は無理だと思われていたことを実行してきた人間。そんな人物に“伊藤なら社長ができる”と思ってもらえたのなら、自分の可能性にチャレンジしてみようと」

2013年に創業したアストロスケール。創業10周年を迎え、本社を東京都墨田区に移転。アストロスケールのグローバル本社として機能する。

資金調達は創業者兼CEOの岡田が担っている。日本での任務は、宇宙デブリ除去のための人工衛星の製造環境を整えることだ。 

自動車産業が発展した日本では、内燃機関に関するパーツをはじめ、小型のロケットや人工衛星を製造するサプライチェーンが整っている。日本は宇宙ビジネスに適しているのだ。伊藤は人工衛星の製造に必要な部品を供給できる町工場などを訪ね歩き、サプライヤーとの関係を構築していった。

“とりもち”と“電線方式”でデブリ回収

当時考えた宇宙デブリの回収手段は、かつて鳥類を捕獲するときに使った“とりもち”をイメージした方法だった。強力な粘着剤に大型の宇宙デブリを貼り付けて回収する作戦だ。円盤型の親機の人工衛星があって、そこから“粘着剤”付きの小衛星を出し、宇宙ゴミをくっ付ける。小衛星に搭載した小型ロケットを噴射させ、大気圏に突入してデブリを燃焼させるという構想だ。岐阜県の化学メーカーと“粘着剤”の試作を繰り返したが、宇宙空間では有機材料の劣化が激しく、“とりもち”をイメージした方式は健闘むなしくボツ。

10cm以下の宇宙デブリは地上からの追跡が不可能である。1cmほどの破片が気づかないうちに衛星に衝突し、甚大な被害を与える場合がある。問題は細かい破片がどこから飛んでくるかわからない点だ。そこで“粘着剤方式”と並行して進められたのが、宇宙のサンプリングデータの取得を目指した微小デブリ観測衛星IDEA OSG1(イデア・オーエスジー・ワン)の取り組みである。

仕組みを簡単に記すと、衛星の表面の薄い膜には3300本の通電した電線が張られている。宇宙空間でデブリが膜に当たると電線の一部が切れる。通電が途絶えた電線の本数で、デブリの大きさがわかる。軌道上に散らばっていて正確な位置や数が把握できない微小デブリだが、衛星が周回する軌道上のサンプルデータを入手できれば、より正確な微小デブリの位置をシュミレーションできる。それにより事前に位置や高度を変えることができ、衛星が微小デブリに当たる危険性を回避できる確率が高まる。

完成した微小デブリ測定衛星をロケットに搭載し、2017年に宇宙に旅立つが、ロシア製のロケットは墜落。打ち上げの失敗でスタッフの期待を乗せた衛星は、海の藻屑と消えた。

夢と希望が宇宙ビジネスのエンジン

これらの開発に前後して、エンジニアを中心に社員の半数ほどが会社を去る出来事があった。伊藤美樹は言う。

「イデア・オーエスジー・ワンの失敗もありましたが、社員の方向性の違いが大きかったのではないかと。特に前職がバラバラのエンジニアは、会社が開発に力を入れる方向に、合う人と合わない人がいたと思います。“一回こういうことがあると次は好転する。前を向いていこう”と言うのが岡田のアドバイスで。確かに次に入社したエンジニアは熱意のある人ばかりした」

自動車業界のエンジニアをはじめ、社員は他業者から集まった宇宙に興味を抱く面々だが、製品化が具体化しない現状だ。当時のスタッフが宇宙デブリの除去という雲をつかむようなミッションと、衛星打ち上げの失敗に目標がぼやけ、気持ちが揺らいだのは想像に難くない。

逆に新しく入社したスタッフは、宇宙デブリの除去という誰も手掛けたことがない分野をはっきり意識して夢を抱き、有望な産業に成長すると、強い思いを抱いているのだろう。

本社内にある一般見学施設「オービタリウム」内の展示。(水・土曜のみ開館。予約必須)

イデア・オーエスジー・ワンの打上げ失敗のあたりから、コンステレーションビジネスが何社か立ち上がってくる。さらに運行を終了した人工衛星、打ち上げロケット上段など、大型デブリの除去という具体的なニーズが具体化してくる。

会社はコンステレーションビジネスへの対応と、大型デブリの除去に二つに大きく舵を切っていく。次回、宇宙デブリ除去の進展を詳しく解説する。

取材・文/根岸康雄

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