これからの時代に必要なのは思考と決断ができる人材
「考える力」を生む環境作りについて、森林監督はこう言う。
「監督なり指導者がすべて管理して、選手が言われたことを忠実にやる。そういった野球型の人材育成は、今の時代には通用しないと思うのです。今でさえそうなので、10年後、20年後にはもっと変わっているはず。言われたことだけをやる、言われたことしかやれない、先のことは考えられない人材ではいけないと思っています。この先、活躍できる人材を、野球を通して育てたい。自分で考えて、決める。多少は回り道であろうとも、試行錯誤してそういう経験をさせたいと思っています」
現在、慶應高校の野球部員は1学年30人超で、3学年合わせれば100人近い大所帯となる。おのおのがモチベーションを保ちながら、チームとして同じ方向へ進むためには、それ相応の難しさがあるだろう。森林監督は慶應大卒業後に一般企業で勤務した経歴を持つのだが、そこでのサラリーマン経験は今、チーム運営に生きている部分があると話す。
森林流 チーム作りの極意
一 質問し、〝自ら考える力〟を育てる
二 ジャッジはするが生き方を尊重する
三 話す以上に「見る」「観察する」を重視
元サラリーマン監督のチーム育成。華やかなプレーの背後にあるもの
「巨大企業で法人営業をやっていました。そこで感じたことは、ひとつの仕事をやるにしても、設備があり、それを保守する人がいる。そして、設計する人やシステムエンジニア、さらに営業や経理を担当する人など、多くの人がかかわっているということでした。それは野球でも同じですよね。例えば、ホームランを打った選手がいたとします。そこには、打撃練習でボールを投げてくれた選手、相手チームの分析をしてくれた選手など、いろんな選手がかかわっている。表面的には華々しく打った選手が注目されますが、ひとつのプレーには多くの人の支えがある。そのことは、高校生でもわかってほしいと思っています」
また、指導者として大所帯をまとめ上げ、強いチームを構築していくうえで、森林監督が心がけているのは「選手全員がチームの目的と目標を共有する」ことだという。
グラウンドにある標語は定期的に選手がミーティングで決めている。
目標と目的の共有、3種のミーティングを日々行なう
「ひとりひとりの野球の経験やレベルは違うので、同じ練習を同じようにやるのは難しい。その中で、チームとして目標を定めて、その先にある目的を共有する。目標は『慶應日本一』で、例えば大村昊澄キャプテンを中心とした今夏のチームは『恩返し』と『常識を覆す』という目的をもってやっていました」
つまりは、目標である日本一を達成して「よかった」と燃え尽きることなく、目的に向けて突き進む。甲子園での優勝も、人生においては通過点という感覚なのだ。
目標や目的の共有のためには、ミーティングを頻繁に行なう。いわば、コミュニケーションの促進だ。
「重層的なコミュニケーションを心がけています」
指導者側から伝えるもの、選手間だけで話し合うもの。あるいは、学年やポジションをシャッフルしながら人間的な部分をぶつけ合うものなど、一面的なミーティングにならないように心がけ、多くの時間を共有している。