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「自分で考える。だから楽しい」慶應義塾高校野球部・森林監督が考える強いチームの作り方

2024.01.06

考える力を育てるために、選手からの提案は受け入れる

 指導者と選手が言葉を交わす時、森林監督は「選手のアクションや言葉に対して、一度はそれらを受け入れる」ことを心掛ける。

「門前払いした瞬間に次からは『もういいや』となる。言っても無駄だからもう言わないとなってしまう。受け入れないどころか、叱ったりすればもう二度と提案はしてこないでしょう。つまり、『考えなくなってしまう』のです。ですから、どんなものでも一度は受け止める。そのうえで、選手たちにこちらの考えを伝えるようにしています」

 技術指導において、「これが絶対に正解だというものを持っているわけではない」と森林監督は言う。今はYouTubeなどを見れば、技術的な情報があふれている時代だ。高校のグラウンド以外でも野球塾といった専門的な指導を受けられる環境もある。森林監督はそれらを否定することなく認めながら、時代に適した指導姿勢を崩さない。例えば、「こういう選手が必要だ」とチーム方針を選手たちに伝え、評価するのは指導者側であるという一定の線引きはする。ただ、最終的なジャッジはするが、その人の考えや生き方は否定しないというのが、森林監督の思いだ。

慶應義塾高校野球部約100人の選手を見るには大学生コーチの存在も大きい。

先頭を走るより目標に向かう者の伴走者でいたい

「例えば、小柄な選手が『どうしてもホームランを打ちたい』という思いを抱いたとしても否定はしません。背番号をつけてベンチに入る選手なのかという客観的な判断は我々スタッフがしますが、その人の生き方は否定しませんよ、という考えです」

 指導者は、選手たちが「なりたい自分になる」ためにサポートをする。森林監督は、選手たちを行きたい場所へ連れていくのではなく、あくまでも何かを目指す選手たちの思いに寄り添う伴走者であり続けたいという。

「前面に立って引っ張っていくというよりは、ドローンで斜め後ろから俯瞰するように選手たちを見ていたいんです。先頭に立って動き続けていれば、後ろの選手が見えなくなるものです。ですから、羊飼いみたいな立ち位置でいたい。指導者にもいろいろなタイプがありますが、僕は手取り足取り教える技術屋じゃなくて、マネジメント型だと思っています」

 人間なのだから、時には感情の赴くままに言葉かけをしたり、物事の判断をしてしまうこともあるだろう。

「そこは、僕が小学校の教員をやっている側面が生かされていると思います。小学生の場合、『何度同じことを言わせるんだ』ということが多々あったりして……。そういう意味で、高校生は大人に見えるんです。また、『時』が解決してくれることって多いんですよね。成長期である高校生は、指導者が邪魔しなければ、ある程度は成長するだろうという思いがあります。大人の指導で選手たちが伸びることもあるでしょうが、逆に潰すこともある。僕は、その『潰す』を極力やりたくない。たとえ17歳、18歳でレギュラーになれなくても、またはベンチに入れなくても、人生は終わらない。高校野球をやっていて、ひとつでも『ここが伸びたな』『こんなところが成長したな』と実感できるものがあればいいと思っています」

 勝利という結果を求めるのは至極当たり前のことだろう。しかし、高校野球の2年半という限られた時間でも、「勝ちたい」「結果を出したい」という思考とのバランスを取りながら、「短期的な答えを求めない」のが森林監督の流儀だ。

「短期間で成果を出さなければいけないことがあるビジネスの世界では、そうはいかない部分はあるでしょう。その一方で、今は企業も働いている人の満足度、あるいはやりがいを高めながらやっていかなければならない時代です。つまり、いろんなことを両立することが大事だと思っています。僕は、勝利を目指す中でも、いかに人材を『残す』か『育てる』かということを考えてやっていきたいと思うんです」

手取り足取り指導しない。
どうプレーしたいのか選手自身が考える

森林監督選手と正常なコミュニケーションをとるために、常に傾聴を心がける。

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