退職金1700万円の支給、地裁は全額→高裁は3割→最高裁でゼロに!懲戒免職になった高校教師の退職金を巡る転落裁判レポート
2023.10.02こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
高校
「飲酒運転して事故ったので懲戒免職ね」
「退職金1700万円は・・・・払いません!」
X教諭が提訴。
地裁
「全額、払いなさい」
↓
高裁
「3割は払いなさい」
↓
最高裁
「0円でよろし!」
Xさんは絶望の坂を転げ落ちました。以下、分かりやすくお届けします(宮城県・県教育委員会(退職手当)事件:最高裁 R5.6.27)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 学校
・公立高校
▼ Xさん
・飲酒運転をして事故る
・勤続30年
・懲戒処分歴ナシ
勤務状況も特に問題ナシ
どんな事件か
▼ 飲酒運転をやらかす
Xさんは、同僚の歓迎会に参加するため、車で歓迎会の会場へ行きました。PM6:20〜PM10:20で飲んだ酒の量は以下のとおり。
ビールジョッキ1杯
グラスビール1杯
日本酒3合
日本酒3合が結構パンチ効いてますね。
宴会後、Xさんは車で家に帰ろうとします。家までは約20Km。
▼ 早すぎる!
かなり酔ってたんでしょう。車を発進させてわずか100mで事故ります。T字路交差点で車と衝突しました。相手車が優先道路です。幸いケガ人はなく物損のみで済みました。
▼ 高校はてんやわんや
Xさんは現行犯逮捕されました。逮捕されたことが報道され、氏名や職業も明らかになってしまいました。そうなると高校はてんやわんやです。全校集会や保護者会を開き、説明に追われました。
▼ 懲戒免職
高校はXさんを懲戒免職にします。そして退職金などを全額カットしました。その額1724万円。その後、Xさんは刑事裁判にかけられ罰金35万円の略式命令が出されました。
Xさんが訴訟を提起
Xさんは「退職金全額をカットしたことは違法だ」と主張して訴訟を提起しました。
ジャッジ
Xさんは絶望の坂を転げ落ちることになります。順に見ていきましょう。
▼ 地裁判決(R3.12)
地裁
「懲戒免職はOK」
「だけど、退職金払わないのはダメ」
「全額払ってあげなさい」
Xさんはガッツポーツだったでしょう。しかし、高校が控訴。
▼ 高裁判決(R4.5)
高裁
「同じく、懲戒免職はOK」
「退職金全額あげるのはできないけど、3割はもらえます」
7割カットされちゃいましたが、3割はもらえるとの判断なのでXさんは胸をなでおろしたことでしょう。高裁が「3割はあげなよ」と判断した理由は以下のとおりです。
【理由】
・飲酒運転で事故ったので退職金が大幅に減額されることはやむを得ない
しかし!
・退職手当には給料の後払いや退職後の生活保障という側面がある
・勤続報償という側面だけじゃない
・Xさんには懲戒処分歴がナイ
・約30年間、誠実に勤務してきた
・事故被害が物損にとどまっている
・反省している
悲劇はここからです。高校が上告します。
▼ 最高裁(R5.6)
最高裁
「全額カットはOK!」
理由は以下のとおりです。
【理由】
・重大な危険を伴う悪質なもの
自分の車で宴会場に行き、長時間にわたって飲酒。
帰るとき、運転開始からまもなく事故を起こしている
・公立学校の教諭 生徒への影響も相応に大きかった
・現に、全校集会や保護者会を開くという対応を余儀なくされている
地裁 → 高裁 → 最高裁と、2年半をかけてだんだん退職金が減っていく。Xさんは絶望だったでしょう。
■ マメ知識
多少のチョンボがあったとしても退職金はもらえます。退職金がもらえないケースというのは「退職者の勤続の功を抹消し又は減殺するに足りる事情があったと評価できる場合」に限られるんです。今回の最高裁は「このケースに該当する」と判断しました。
今回、地裁・高裁・最高裁で異なる判断が出されたことから分かるとおり、裁判官の価値観によって判断が変わります。
最高裁でも裁判官全員が「全額カットはOK!」と言ったわけじゃありません。宇賀克也裁判官は、3割支給させることが相当だ、という趣旨のことを言ってます。全額カットはやりすぎじゃんってことです。
退職金をめぐる裁判例
退職金をめぐるトラブルは、以下の記事でも解説しています。すべて裁判例解説です。
■ 同業他社への転職
https://dime.jp/genre/1501562/
■ 社員を引き抜いて新会社を設立
https://dime.jp/genre/1501574/
https://dime.jp/genre/1592257/
■ 警官が女子トイレを盗撮
https://dime.jp/genre/1579614/
さいごに
▼ 相談するところ
もし、何かのチョンボで退職金をカットされそう or された方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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