こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
Xさん
「残業代を請求します」
「証拠は・・・私が入力した出勤簿です」
会社
「いやいや」
「その出勤簿、信用性ないですよね」
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「Xさんが入力した出勤簿を信用します!」
残業代おそらく150万円ほどゲット。
以下、分かりやすくお届けします(クロスゲート事件:東京地裁 R4.12.13)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
・化粧品の販売などをしている会社
▼ Xさん
・正社員
・肩書き:執行役員副社長兼支社長
・給料:月額50万円
どんな事件か
Xさんは約1年7ヶ月で退職しました。
ーーー Xさん、お怒りのご様子ですが、何があったんですか?
Xさん
「残業代を払ってもらえなかったんです。残業代を請求します」
※ おそらく150万円くらい
ーーー 訴訟になる前のやりとりは?
Xさん
「辞めてから1年ほど経ったころ、会社に書面を送ったんです。残業代を払ってほしいと。あと、出勤簿や就業規則を開示するよう求めました」
ーーー 会社の対応は?
Xさん
「・・・無視です」
ナメてますね。それで訴訟になったわけですね。
残業したのは、何時間?
1つ目の争点は【残業したのは、何時間だ?】です。
ファイト!
Xさん
「働いた時間を証明するために、私が入力した出勤簿を提出します」
会社
「いやいや、これでは労働時間の信憑性がありません」
ーーー 裁判所さん、ジャッジをお願いします
裁判所
「Xさんが入力した出勤簿を信用します」
〈理由〉
・会社は労働時間をタイムカードなどで機械的に記録していない
・労働時間の把握は【従業員が勤務簿(エクセル)に入力して会社に提出する】という方法だった
・Xさんが提出した出勤簿を見て会社が疑義を述べた形跡がない
▼ 注目!
今回のXさんのように労働時間を雑に管理されませんか?そういう場合は、あなたが書いたメモなどが証拠になることがあります。できるだけ具体的に書きましょう(どんな仕事をしてたかなど)メモだけだと弱いので、仕事の終わりに誰かにメールを送るなども併用してみてください。証拠は【合わせ技】で強くなります。
▼ コチラの記事もどうぞ
■ 社員の報告書を信用してくれたケース
上司に提出していた勤務状況報告書を見て裁判所が「こんだけ働いてるね」と認定してくれたケースです。
仕事が終わったときに上司にメールを送っておくのも手です。
■ タイムカードを押した後も働いていたが…
PCの履歴(最終データ)を見て、裁判所が「もっと働いてるじゃん」と認定してくれたケース。
単価はいくら?
2つ目の争点は【単価はいくら?】です。ここが超重要です。なぜなら、残業代=単価×残業時間だから。単価が上がれば残業代も上がります。
ファイト!
Xさん
「私の給料は月額50万円です。なので単価も50万円です」
「50万円×残業時間で計算して下さい」
会社
「ちょっと待ってください!」
「50万円は残業代を含めた金額です」
「なので単価は50万円よりも低いはずです」
■ 解説
会社の言い分は、固定残業代ってヤツです。「あらかじめ基本給+残業代を払ってるでしょ」という主張です。
ーーー 裁判所さん、ジャッジをお願いします
裁判所
「Xさんの言うとおりです」
「会社さんは固定残業代を理解しておられないようで…」
ーーー と申しますと?
裁判所
「Xさんと会社との契約を見ると、通常の労働時間の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分とを区別することができません。なので固定残業代の運用は無効です。そうすっと月額50万円すべてが単価となります!」
▼注目!
固定残業代のNG例とOK例は、こんな感じです。
× NG例
× 月給25万円(固定残業代を含む)
〈なぜNGか?〉
固定残業代はいくらなのか?何時間分の残業なのか?ということが分からないから。
○ OK例
○ 月給25万円(固定残業代 20,000円(10時間分)を含む)
○ 月給25万円(固定残業代 20,000円を含む)
〈なぜOKか?〉
「この残業代は何時間分に対応してるんだな」と理解できるからです。上のケースのように金額と時間を書いてあると丁寧なのですが、下のケースのように金額だけでもOKというのが一般的な考え方です。「時給換算すれば何時間分かを計算できるでしょ」という考え方です。
この会社の契約はNG例のようなものだったのでしょう。
■ コチラもどうぞ
「固定残業代で定額働かせ放題させられている…」という方は、コチラの記事もご覧ください。Xさんのように【上乗せの残業代】を勝ちとれる可能性があります。
というわけで、裁判所は会社に残業代の支払いを命じました(おそらく150万円くらい)
お仕置き(付加金)
裁判所
「会社さん、そこに立ってね」
「あ、もうちょい右…」
「動くと危ないからね」
ビシッ!
さらに110万円のお仕置きです。
■ 解説
「残業代の不払いが悪質だなぁ〜」と判断すれば裁判所はお仕置きを命じます(付加金・労働基準法114条)
裁判官が「この不払いはクソだ!」とブチギレれば最大で倍返し(半沢直樹)を命じることがあります(たとえば残業代が100万円としたら付加金を100万円もプラスして、合計200万円の支払いを命じます。裁判官を怒らせたら怖いのです)
今回お仕置きをした理由は
・残業代を適切に計算していなかった
・残業代を支払わない運用を続けていた
というもの。
さいごに
労働時間を雑に管理されている方は【何時間残業したか】の証拠づくりをオススメします。
▼ 相談するところ
残業代の請求は労働局でもできます(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局だとザックリ解決になるので、ガッツリ請求したいときは社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。ではまた次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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