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話題のDX小説第10話【TOKYO 2040】メタバース記者会見

2022.03.02

コロナ禍を機に、一気に加速した「DX」だが、行きつく先にはどんな未来が待っているのか。昨年の都知事選にも立候補した小説家、沢しおんが2040年のTOKYOを舞台にIT技術の行く末と、テクノロジーによる社会・政治の変容を描く。

※本連載は雑誌「DIME」で掲載しているDX小説です。

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【これまでのあらすじ】
 二十年のうちにデジタル化が浸透した二〇四〇年の東京。道州制導入を来年にひかえた日本では、廃藩置県以来一七〇年ぶりの大ムーブメントとばかりに、自治体の再編と州都の誕生に湧いていた。近々役割を終える「デジタル推進課」の葦原(あしはら)は、現実社会と量子ネットワークの両方から消えた住民データの調査に関わることになるが──。

メタバース記者会見

 議員の佐流山(さるやま)から来た〝紙の〟メモに目を通してから、葦原は課長の大黒(おおぐろ)の顔を窺った。

「このメモ、次の議会での質問にネットワーク障害のことを盛り込むと書いてありますが、これってデジタル推進課の対応ですか」

「いや、インフラ局が筋だろう。当然、こっちもサービスレイヤーでの調査は進めているし、あとで相談だな」

「ここまでの規模だと、知事は今日にでも会見するんですかね」

「相当広範囲だからな。障害の発生そのものも問題だし、情報公開のプロセスによっては州知事選にも影響するだろう。踏ん張りどころだな」

「やっぱり知事は、道州制で最初の州知事選に出るんですかね」

「後で何が尾を引くかわからないから、佐流山議員との質問の打ち合わせは慎重にしないとな」

 葦原は、大黒が知事を支えたいと思っているのか、それとも面倒事を予防したいだけなのか、量りかねた。


「議会での質問って、議員だけでAI使って作れるのに、いまだに打ち合わせを要求してくるんだもんなあ。佐流山さん、古すぎ」

 谷津(やづ)はわざと嫌な顔を作ってみせた。

「AIとの対話でどれだけ知りたいことが引き出せるようになっても、相手が生身じゃないと納得いかない人っていうのはいる」

「議員の皆さんが持ってるPA(パーソナルアシスタント)って、今回障害の出た都のデータベースにアクセスできますよね。ひょっとして、それが使いたい時に使えなかったから佐流山議員は怒ってるんですか?」

「今の話を聞いててそれはないだろ。調べ物するのも他人に頼むようなお方だぜ? バスに乗れなかったとか、施設に入れなかったとか、議員の特権をブン回せなかったみたいな、そういうことじゃないの?」と、谷津が再び口を挟んだ。

「いや、だってここ。もしバスや施設の入り口で足止めされても、こんな書き方あります?」

 葦原が紙のメモに書かれていた『認証が進まなかったせいで議員活動に支障があり、』の部分を指さした。

 大黒は葦原からメモを受け取り、じっくりと目を通す。

「……そうだな。後でインフラ局長に聞いてみる。今、佐流山議員に詰められているだろうからな。もっと詳しいことを聞かされていると思う」

 夕刻になり、大黒は薄型のVRゴーグルを取り出して、葦原をメタバースへ誘った。

「今日の記者会見は現地で見よう。これまで実際に入ったことは?」

「実は初めてです、動画中継では見ていますが」

「中継は見てるのか。昔は庁内のモニターで会見映像を流してたが、熱心に見てるのはそんなにいなかった」

 大黒に続いて葦原もゴーグルを装着した。

 瞬間、眼前にホールと客席が現われる。行政のメタバース空間は、民間のエンタメ用やビジネス用と互換性があり、どのサービスを使っていても進入できるようになっている。その代わり、着用できる服装はシンプルなものの組み合わせに限られ、奇抜な格好は選択できない。

「昔の会見って、メタバースになる前はどんなだったんですか」と葦原は大黒に訊いた。

「こういうのをそのまま現実でやってた。生身の記者が会見場に集まったんだ。もちろん一般市民は入れなかったから、こんなに人数はいなかったが」

「それがメタバースになって、今これ、五千人くらい来てますよね」

 葦原は周囲を見回した。ステージとそれに近接するメディアの記者専用エリアへは、専用のアカウントがなければ入れないが、それ以外の場所は会見を見に来た人々のアバターがひしめいている。

 VRゲームなら、特殊効果で会見の邪魔もできてしまうが、互換性を重視するという理由でそれら機能は封じられ、何かができるとしたら走り回るくらいだが、この混雑ではそれも目立たない。

「ここでの記者会見も、だいぶ変わった。最初は遊びの延長で会見をやるなんてとんでもないって批判も多かった。だからメタバースになってからしばらくの間は、記者クラブしかこの空間に入れなかった」

「そういう批判を避けて参加者を絞るフリをして、一般の人やフリーの記者を体よく締め出したんですね」

「勘がいいな、そのとおり。こんなにオープンになったのは今の知事になってからだ」

「じゃあここ7年くらいなんですね」


 会見は淡々と進行し、ステージ上の知事がネットワーク障害についての説明を始めた。

「……でありまして、基幹システムに使用しております量子ネットワークにゆらぎが発生し、認証が必要となる場面で、認証が通らない、正しいものが正しいと判定されないという状況が発生していました。量子ネットワークに発生するゆらぎにつきましては、すでにPA宛にお配りし、公開もいたしております技術資料をご覧いただければと思います」

 その瞬間、記者から声が飛ぶ。リアルな会見であれば質疑応答の時間まで黙って聞くのがマナーだが、メタバース内では多くの人が自在に発言して良い。五千人の口を塞ぐのではなく、各自が聞きたくない周囲の声をミュートできるからで、これはSNS由来の文化といえる。だから記者から飛んだ声は知事にとっては「合いの手」のようなものだ。

「具体的な影響について教えてください」

 この合いの手ひとつをとっても、議会の質問のようにあらかじめ記者と打ち合わせてあったりするのだろうかと、葦原は思った。

「まず影響範囲ですが、東京都で運用しております施設への電子入館や入室、コミュニティーバスをはじめとしたモビリティーの改札、庁内および出先機関で使用しておりますシステムへのログイン、これは職員だけでなく都立高校の生徒に発給しておりますウォレット付きパスカードでの認証や、警視庁や都立病院で使用するものも含みます」

「今、おっしゃった施設やシステムの使用が不可能だったということでしょうか。警察や病院も含むのであれば人命に関わる事故が発生しているんじゃないですか」

「アクセスしづらい状況ではありましたが、実際は何度か操作をすれば認証がされており、クリティカルな施設やシステムでは不測の障害に備え、有人で代替的に運用できるようになっておりますため、現在まで致命的な問題の発生は確認されておりません」

「これによる個人情報の流出などはありますでしょうか」

「ございません。今回の障害はそういった性質のトラブルではありません」

「今より被害が拡大するような予測はありますでしょうか。再発防止についてもご回答ください」

「原因となる量子ネットワーク内に発生していたゆらぎにつきましては、解消が観測されていると報告を受けております。現在は原因の究明とともに、個々の被害を確認し、復旧の必要があるものについてはその復旧作業を進めている段階です。再発防止については、これらを精査したうえで、あらためて取り組みをさせていただきたいと思います」


 流れるように会見や質疑応答が進んだが、最後の質問だけは毛色の違うものだった。

「草薙(くさなぎ)知事に、近づいてきた道州制による日本列島再編について質問します。初の州知事選挙には出馬されるのでしょうか?」

「……その件につきまして、今は申し上げられる内容はございません。ネットワーク障害について、一刻も早くの事態の収拾に努めたいと考えております」


 草薙知事のアバターはその言葉を最後に、深くお辞儀をするとステージ上からスッとログアウトし、消えた。

(続く)

※この物語およびこの解説はフィクションです。

【用語・設定解説】

メタバース:2000年代に『Second Life』の流行があり、VR機器が普及し始めた2020年代に大手SNS企業が注力するなどで話題を呼んだ。この物語では、空間の拡張という利点が多くの人に理解され、コモディティー化したのは2030年代という設定である。

州知事選挙:2020年代後半の震災後から、広域自治体のあり方が議論されるようになり、2040年には関東一円がひとつの「州」となることが決まった。その最初の州知事選挙は、選挙活動から当日の投票まですべてデジタル化され、住民の関心が高いだけでなく、世界からも注目が集まっている。

沢しおん(Sion Sawa)
本名:澤 紫臣 作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選にて9位(2万738票)で落選。

※本記事は、雑誌「DIME」で連載中の小説「TOKYO 2040」を転載したものです。

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