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【サステイナブル企業のリアル】「流通から外れた商品をもう一度流通に戻す、フードリカバリーを実現したい」全栄物産・植田全紀社長

2021.10.27

前編はこちら

地球環境の保全に配慮し、未来の子供たちの利益を損なわない、持続可能な社会発展にコミットする製品や企業を紹介するシリーズ、「サステイナブルな企業のリアル」。

今回は食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」のお話だ。SDGsには「飢餓をゼロに」の目標が掲げられるが、日本の1年間の食品ロスは実に約612万t、東京ドーム約5杯分(農水省発表)だという。

今回取材したのは全栄物産株式会社 代表取締役 植田全紀(まさき)さん。草加と練馬で展開するスーパーゼンエーのオーナーだ。従業員はパートを含め約50名。年商は約5億円。大手スーパーに安売りで対抗する植田さん、SDGsを知ったことで、自分の商売が食品ロスの軽減につながることを強く意識。「フードリカバリー」という標語を掲げ、食品ロスの少ない店づくりを摸索するが、そもそもなぜ食品ロスが生ずるのか。流通の不可解な仕組みを彼は解説する。

「でも、こういう店もありだよ」

賞味期限の3分の1を過ぎた商品は納品に応じないし、3分の2を過ぎた商品は売場の棚に置かない。大手スーパー等から返品された商品の多くは廃棄されるが、現金問屋等を通して流通するものもある。植田は主に賞味期限がネックの“わけあり商品”を扱う問屋を開拓。野菜も規定外のふぞろいのものを扱い、格安スーパーとして店舗を展開。

定額での商品の袋詰め企画がテレビで取り上げられると、客が詰め掛けて売上げは1.5倍ほど伸び、従業員も増やした。だがテレビ放映から3カ月も経つと客足は止まり、売り上げも落ちて、従業員の人件費がのしかかった。

当時、従業員との会話はこんな感じだった。この従業員はスーパーで働いた経験がある。

「社長、そんなものを売っているから信用を失い、客離れにつながるんですよ」

植田は他のスーパーでは扱わない、賞味期限が短いカップラーメンやレトルト食品、缶詰等、あるいは商品の入った箱がつぶれたりして、返品された品物を仕入れ、スーパーの店頭で市価の半額以下で売った。賞味期限切れの缶詰をタダで客に配ることもある。

「そんなハンパな野菜を仕入れるから、僕らまでちゃんとしていないもののように扱われるんです」

野菜売場の2~3割は、曲がったキュウリや規格外のふぞろいなものを並べ、市価より3割以上安く売った。ふぞろいな野菜は加工に手間がかかる。いい品物を比較的安く売る店はあるわけで、安いというだけでは思うように売れない。

「でも、規格外の野菜や賞味期限の近いものを売っている、そういう店もありだよ。そういう店が増えればいいと僕は思うんだ」

植田は主張するように従業員に語った。

食べられるものを捨てるのはもったいないという思いからの言葉だった。そんな彼にとってSDGsを知ったことは、自分のやるべきことの焦点がピタッと合った思いだった。

「『飢餓をゼロに』は、SDGsの17の目標の一つです。仕事を通して小さくても、僕にできることがあるのではないかと」

産廃食品は引き受ける

食品ロスをなくすことは、『飢餓をゼロに』の目標達成に大いに貢献する。実際、本来食べられるものを捨ててしまう食品ロスは、目に余るものがあると彼は言葉を続ける。

「最近の例で言うと、コンビニのおでんの具材の大根の水煮。メーカーは1000個注文を受け作ったが、コンビニ側は『売れなかったから500個以上いらない』と。メーカーとしては今後の取引もあるので全部、買い取ってくれとは言えない。メーカーの営業担当がうちに来て、『これ買ってくれませんか』と」

植田は常日頃から、産業廃棄物となる食品を引き受けるよう心がけている。この時も一袋20個入りの大根の水煮を大量に仕入れ、一袋450円で販売した。

環境問題に配慮の姿勢を謳うあるコーヒーチェーンの店頭で販売するスコーン。袋の中で割れたものは返品だが、それらすべてに転売禁止が指示されている。

「捨てるよりもあんたのスーパーで売ってもらったほうが助かるんだけど、“捨てろ”と強く言われているから、転売できないんだよ」

彼はOEMでスコーンを製造する製菓メーカーの担当者のそんな吐露を聞いている。大手コーヒーチェーンにとって、既存の流通から外れて安売り屋の店頭に並ぶと、企業ブランドを損ねるというわけだ。

「大手スーパーやコンビニは、プライベートブランド商品を他の店で安く売られることを嫌います。大手のコーヒーショップはお客に悪いイメージを与えたくない。いずれも転売禁止とするため廃棄せざるを得ない。商社系等の大手の問屋、OEMで製造を委託されたメーカーは指示に従い産業廃棄物として捨てます。僕らが仕入れて流通させる商品は、破棄から漏れた、本当に一部の商品なのです」

取引がある中堅の製菓メーカーでは、OEMで製造したパウンドケーキが、8千個売れ残っていた。「売らせてください」植田の申し出に、製菓メーカーはOEM先の企業に了解を取り付けた。彼は仕入れた8千個を“行き場を失った商品があります。買ってくれませんか”と、SNSで発信した。すると、パウンドケーキは1日で完売したという。

フードリカバリー店の構想

――植田さんはフードリカバリーを提案していますが、その言葉の意味を教えてください。

「流通から外れた商品をもう一回、流通に戻そう、リカバリーしようという意味です」

――フードリカバリーがSDGsの目標達成への貢献となるわけですね。

「今年の12月には店を改築したいと思っています。増築したスペースに、フードリカバリーショップゼンエーと看板を上げたい。売り場では農業法人から無選別野菜をそのまま仕入れ、大きいのや小さいのやふぞろいの野菜をお客さんに選んでもらいグラム売りをする。メーカーがOEMで作ったものの、発注が来なくて納品期限が過ぎたものや、返品になって捨てられるものを売る。もちろん値段は市価より30%以上安い。フードリカバリーに協力してくれる工場のイメージアップにつなげるためにも、おしゃれな店にしたい」

この業態が確立し支持されたら

そんな業態の店をオープンするためには、問題が山積みだ。例えば表示の問題。

食品工場から仕入れるアウトレット品は、ラベルが貼られていない場合が多い。だがカロリーや原料、含有物質等の表示は義務付けられている。売場にポップを置いて、表示をすればいいじゃないかと保健所と話し合ったことがある。これも食品ロスを減らすために、政治的に解決しなければならない問題の一つだ。

――要はフードリカバリーショップが経営が成り立つのかどうかということです。

「他のスーパーの逆張りですが、単なる“安売りの店”より、フードリカバリースーパーという、倹約と社会貢献をテーマにした業態が確立し、支持されたら真似する店が出てきます。それは食品ロス解消につながる道です。

将来的には障害を持った人たちと一緒に働ける店にしたいな。障害を持った子どもたちが、商品の袋詰めをしたり、“いらっしゃいませ”とお客さんに声をかけたり」

今は安売りが目玉の小さなスーパーだが、植田全紀の社会貢献への夢は羽ばたいているのである。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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