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【サステイナブル企業のリアル】「リサイクルした商品は何よりも魅力的でなければならない」日本環境設計・中村崇之さん

2021.05.26

前編はこちら

環境や資源への配慮、地球環境の保全、未来の子孫の利益を損なわない社会発展、持続可能な社会の実現にコミットする製品や企業を紹介するシリーズ。世界のアパレル業界は年間9200万トンのごみが生まれ、その多くは埋め立てや焼却処分されるといわれる。約60%の衣服にポリエステルの繊維が使われているが、古着のポリエステルをリサイクルし、全く新しいブランドの服を提供する、今回はそんなサステナブルなベンチャーの紹介だ。

日本環境設計株式会社 プロダクトマーケティング課課長 中村崇之さん(39)。古着を回収し、自社工場で古着に含むポリエステルを抽出。樹脂に再生し糸、生地、服をつくり、BRINGというブランドで販売。ポリエステルの古着を付加価値の高い服に変える。そんな服から服への循環リサイクルのビジネスモデルを確立した日本のベンチャーは、この会社だけである。彼はBRING事業の責任者を担う。

リサイクルの循環を完結するには

「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」に登場する、ゴミをリサイクルした燃料で走る車型のタイムマシンのデロリアン。1989年公開の映画は、2015年10月21日にタイムスリップするが、それに合わせてデロリアンを輸入し、イベントの開催を計画。10月21日当日は、今治市の自社工場で古着から精製したエタノールを使い、実際にお台場のイベント会場でデロリアンを走らせた。デロリアンを輸入したイベントは、大いに盛り上がった。

古着を集めてリサイクルし消費者に戻す、消費者を巻き込む形での循環の輪づくりのアピールが、イベントを発想した岩元美智彦(現・会長)の想いだった。だが、それにも増して、中村は語尾を強める。

「消費者はリサイクル自体が、好きなわけではないんです。魅力あるもの、欲しいものを提供しないとリサイクルの循環は完結しない」

――つまり、消費者が出したものを単にリサイクルするのではなく、魅力ある製品に変えて手元に返す、そんなサーキュラエコノミーが何より大事だと。

中村崇之はうなずいて、「デロリアンのイベントを通してわかったことは、魅力的なリサイクルでなければならない、それが最優先だと痛感しました」

https://www.jeplan.co.jp/technology/bottle/より引用

服から服へのリサイクル本格始動

で、時を同じくしたかのように、会社にかかってきた一本の電話から事が動き出す。

「こういう技術があるんやけどな」

その電話を受けた社長の高尾は翌日、電話の主の初老の男性と会うべく関西に出向いた。

今治の工場は綿の古着からエタノールを生成するリサイクルを手掛けていたが、事業としては芳しくなかった。会社は回収した古着のリサイクルや、リサイクルに関して企業のコンサルティング等で運転資金を捻出していた。だが、使用済みのペットボトルをポリエステル繊維に変えて縫合した服、この服が古着になった時のリサイクルは社会的な課題である。服から服へのリサイクルの循環は、会社創設以来の目標であった。

電話の主の初老の男性は、長年ペットボトルのリサイクルに携ってきたエンジニアで、「使用済みのペットボトルを繊維にして作った服を、もう一度ポリエステルに戻すことができるんや」

大手企業が特許を持つ手法とは異なる方法で、中村たちの長年の目標を現実化する技術に熟知していたのである。この技術者の持ち込んだ技術で、新事業は一気に加速する。

いったいどんな技術なのか。ザックリいうとポリエステルのアパレル製品の分子構造をリセットする。ケミカルリサイクルという技術で、古着をポリエステルモノマーというラムネ状の粒に還元、さらにそれを原料の樹脂にして、糸、生地、製品製造まで自社で、一気通貫で実現する。

投資を募り従業員を採用して、ポリエステルの古着を再び服としてリサイクルする、世界初の工場が北九州に竣工したのは2017年だった。

魅力あるリサイクルの製品とは

単なるリサイクルではない、魅力ある商品を消費者に届けないと――

デロリアンのイベントで痛感したテーマを中村は模索し続けていた。

「直接消費者に販売する最終製品は、強化しないとだめだ」

「デザイナーズブランドのような奇抜なデザインではなく、ずっと着られて売り続けられることが大事だね」

「男性も女性も着られるジェンダーレスがいい」

中村とスタッフは、そんな感じのミーティングを続けた。

魅力的な服として、彼がこだわったのは着心地だった。ポリエステル製の古着をリサイクルした時、ポリエステル特有のシャリシャリした皮膚感覚を取り除き、新しい着心地を実現したい。試行錯誤が続いたある日のことだ。

これだったらイケるぞ!

環境問題に取り組むアウトドアのショップ、パタゴニアの店頭で手にしたTシャツの生地に、中村は思わずうなった。ポリエステル製なのに、シャリシャリした感覚がまったくない。着心地はまるでコットンではないか。ポリエステル特有の吸水性と速乾性を備え、コットンタッチの着心地。

これだ、よし、これでいこう!

ポリエステル製の古着のリサイクルで誕生した、再生ポリエステル素材のBRINGというブランドの服に、中村は躊躇なくこのコットンタッチを選んだ。

北九州響灘工場での再生ポリエステルの樹脂の安定的な生産は2018年から。Tシャツを中心にこれまでにBRINGブランドの服はネット等でおよそ5万枚販売した。古着の回収のビジネスは全国に広まり、年間400~500トンの古着が集まるが、工場の生産量を増すために現在、原料はポリエステル100%の服に限っている。回収した古着うち、服にリサイクルされるのは全体の5~10%だ。90%以上はこれまで通り、リユースや寄付、自動車の内装材等にリサイクルされる。

まだ流通量は少ないが、商社を通して工場で生産した再生ポリエステルの原料をアパレルのメーカーへ提供することも始まっている。

「例えば、日本で出たゴミを台湾でリサイクルするのは輸送費もかかる、化石燃料も使うしナンセンスです。いろんなブランドと組んで、ポリエステルリサイクルの工場を世界中に建設する。技術ライセンスのフィーを得ることが我々の将来的な展望の一つです」

再生ポリエステルのブランド、BRING。各サイズそろったTシャツは税込みで定価4730円。値段に見合う魅力的な服であると、中村崇之の口元がほころぶ。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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