■連載/あるあるビジネス処方箋
前回、リーダーシップをテーマに取り上げた。その際、同僚に対し、想像力を持って接することが必要と書いた。例えば、社員Aが「家庭の事情で定時より早く帰る」と言い、退社した。その時、Aの仕事を社員Bがする場合、それでいいのかどうか、と想像すべきと私は思う。Bにはするべき仕事があり、Aのフォローはできなないのではないか。それにも関わらず、Aの仕事を押し付けていないか。こういう想像は絶対に必要だと思う。
ところが、ほとんどできていない職場がある。管理職の中には「仕事熱心だから」「なんとかしてくれるから」とBに押し付ける人がいる。会社員の頃(2005年まで)を振り返っても、9割以上の管理職がこの類だった。管理職として締め切りや納期に間に合わせるために、なんとかしないといけない。そこまでは理解できなくもない。
だが、Bに強引に押し付けるのは筋違いだ。管理職としてのマネジメントや責任を放棄している。Bは自分の仕事で一杯にも関わらず、Aの仕事を急きょしなければいけないかもしれない。私の取材では過労死や過労自殺になる社員が現れる部署は、こういう職場が目立つ。過労死や過労自殺になる社員は、Bのようなタイプが多い。
結論から言えば、このような上司に必要以上の協力をすべきではないと私は心から思う。そもそも、マネジメントや責任を放棄しているのだから、部下としての責任も遂行する必要はないだろう。上司は管理職なのだから、まずは上司がAの仕事を対処すべき。それができない場合は、担当役員や人事部と話し合い、他部署から応援の社員を送ってもらったり、派遣会社に新たな社員の派遣を依頼するのが筋ではないか。
この5~8年前後、「働き方改革」の影響もあり、「お互い様」といった言葉が浸透している。例えば、Aが家庭の事情で帰る。それをBに任せる。Bが不満を持つと、「お互い様」と称してそれを言えないようにする。「お互い様」ならば、AはBの仕事をしないといけない。ところが、しない。そのことに、Bが不満を持つと「協調性がない」「チームワークを乱す」と批判を受ける。いつの間にか、A中心の職場になっている。管理職も勝ち馬に乗るかごとく、このいじめのような構造に何も言わない。
今、Bのような人は増えているのではないか。実は、私も30代の頃に経験した。つくづくバカバカしく、退職をした。17年前のことだが、辞表を出した時、清々したことは今も覚えている。
私は、読者諸氏に退職を勧めない。だが、Bのような境遇で苦しみ、精神的にももたないと思う場合、退職を選択肢の1つにすることは勧めたい。Aやその言いなりになる同僚、そして上司のためにがんばるほどに、いいように利用されることはほぼ間違いないだろう。「いつか、自分が解放される」「認められる」なんて思うべきではない。想像力がない人に協力しようとも、限界がある。最後まで利用されるはずだ。
過労死や過労自殺になってほしくないから、こういうことを書いてみた。私の氏名と「過労死」と合わせてネットで検索すると、過労死で亡くなった社員の遺族にインタビューしている記事がいくつかあるはずだ。いずれも、Bのようなタイプで、誠実な人たちだった。まじめな読者諸氏に言いたい。縁を切るべき相手は、世の中にはいる。それはもしかしたら、上司や同僚、Aのような人かもしれない。
文/吉田典史