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サステイナブル――持続可能、環境や資源に配慮、地球環境の保全、未来の子孫の利益を損なわない社会発展、それらにコミットする製品と企業を紹介する新シリーズ、「サステイナブル企業のリアル」。シリーズ第3弾はEⅤ車をインドで販売するベンチャーの物語である。
テラモーターズ株式会社 代表取締役社長上田晃裕さん(35)。化石燃料を使う内燃機関を禁止する動きが世界中で加速している。EⅤ(電気自動車)への流れはもはや止められない。EⅤはサステイナブルな脱炭素時代の潮流を代表するアイテムの一つだ。
世界を席巻するハイブリット車の陰に隠れ、日本でEⅤの認識と普及は、世界の中で周回遅れといわれる。だが、EⅤで世界に打って出ようという日本発のベンチャー企業も存在する。今回のテラモーターズはそんな企業だ。現在、Eリキシャといわれる電動三輪車のインドでのシェアはナンバーワンである。
ライオンを倒せるものを市場へ
大手電機メーカーの社員として中東に赴任した上田晃裕、仕事は面白かったが今一つも燃えない想いを抱いていた。そんな時にこの会社の創業者の徳重徹と出会い、「僕らでもう一度、ソニーやホンダのような会社を作ろう」という言葉にしびれ、2015年に転職。EⅤの海外展開、狙いはアジアで幅広く利用されるリキシャ(乗り合い三輪タクシー)である。
バングラディシュ法人の立ち上げから携わり、1年半で150ほどの販売店と7億円ほどの売上げを立てたが、今後のインドの経済発展を考え、会社はリソースの集中を判断。バングラデッシュを撤退し、インドへと舵を切る。
バングラディシュでの会社の組織作りや、利益を上げ結果を出したことが評価され、上田晃裕がインド法人の責任者として異動したのは2017年1月。
「デリーに入ったんですが、最初はブチきれそうになりました」
管理のシステムはできていない。当時の経営トップと現地スタッフの意思の疎通がうまくいってない。販売台数も年間700台ほどで売上げは1億円を切っていた。
彼の赴任はインドの拠点を立て直すためだったのだ。
「僕たちは今、ハイエナのようなものです。競合はライオンです」赴任してすぐのミーティングに、上田はそう切り出した。「僕らは後発です。今売れているものをしっかりと研究してベターなものを、ライオンを倒せるものを市場に送りだして行きましょう」
売れ筋の中国製やインド地場メーカーのリキシャと比べると、自社のリキシャはデザインがスタイリッシュではない。競合はリモートロックも水のボトルを置くホルダーも、小銭入れのアクセサリーケースもあるのに、自社製はどれも装備されていない。それで競合より値段が高いのだから、売れるわけがない。
インド人が驚く、新鮮だった契約書
満を持した新型車は、売れ筋を参考にインド人が好むデザインに変更した。自社工場は持たず6~7割は中国のOEMの工場に依頼し、基幹部品は現地で調達。新型車には競合他社と同じ装備を取り入れ、ラジオも搭載した。
「EⅤ車はガソリン車に比べて構造が単純」
「品質が上がるので、買い替えの頻度が下がる、メンテナンスも楽」
「電気はランニングコストが安い。経済的にもメリットがある」
新型Eリキシャのディーラーへのセールストークは、バングラディシュの時と大方一緒だが、アフターサービスを充実させた。リキシャ業界で初めて、6か月の保証契約書を発行したのだ。日本では当たり前の契約書だが、競合の中国やインド地場メーカーには、契約という文化があまりない。部品に関しては6か月補償を、さらに2000円ほど払うと、1年半ほどの保証が明記された契約書は、インドの人々にとって新鮮だった。
舗道の整備が行き届かないインドでは、1マイル程度の移動にリキシャが使われる。インフラがない農村部は、ちょっとした足としても利用される。リキシャは庶民の乗り物で、リキシャの運転手は低所得者が多い。そんなインド事情を背景に、上田はローンサポートを充実させていく。
「もっと稼げますよ」
そんなセールストークで、ローンの活用を勧めたのだ。三輪ガソリン車の価格が高い。賃貸料を払って借りるケースが多く、手元に利益があまり残らない。借りるよりもローンを組んでEリキシャを購入すれば収入は向上する。貧困の克服は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の一つであり、社としても目指しているものだ。
日本人の一つの弱み、それは…
新型車の投入で、売上げは右肩上がりだったが、まずい…と感じる経験もした。
「ある地域での分析と戦略を、責任も含めて現地の部下に任せてしまった。でも、そのスタッフはそれをこなす能力が足りなくて、責任を押し付ける形になってしまい、プレッシャーを感じて結局、辞めてしまった。部下が身動きとれない状態に陥った時、それを察し、一緒に問題解決に取り組む、それがリーダーには必要だと肝に銘じました」
――でも、風習も習慣も異なるインドの人たちと仕事をする場合、それなりに気を付けなければいけない点もあると察しますが。
と、そんな私の質問にインドにいるリモート画面の向こうの彼は不思議そうな顔をする。
「国籍によって異なるというとらえ方は、僕も会社もしませんね。インド人は英語もバリバリできる。数学に強いし、起業するマインドも強い。国籍が違っても優秀であれば幹部としてどんどん登用していきます」
さらに彼は、「国籍によって人のとらえ方を違えるのは、もしかして日本人の一つの弱みかもしれない」と、言葉を加えた。
誰より強い当事者意識
2019年のシーズンは、自社のEリキシャが売れまくった。インドの確定申告は遅く、1億円ほどの還付金の返還が遅れた。資金がショートして部品が購入できず、チャンスを逃すのは避けたい。上田は親や親せきに頼み込み、4000万円ほどをかき集め、会社に貸してチャンスをものにした。2019年10月に社長に就任したのは、実績が認められたことはもちろんだが、「一番のアピールは当事者意識の部分かと」彼はそう応えた。
赴任当時の販売台数は年間700台だった。昨年はコロナの影響で1万台だが、今年は2万6000台を目指す。販売店はおよそ250、インド全州29州のうち、14州で販売を展開している。売上高はざっくりと11~12億円。
「僕たちが売っている車は、人をA地点からB地点に運ぶ目的のために作られていますが」
――注目される自動運転をはじめ、巷で言われるEⅤの近未来の可能性は、計り知れないものがあります。
「EⅤによって、次世代は大気汚染や事故がない、渋滞がない、そんな交通インフラを作っていく、そしてその先は――」
上田は最後に、こんな言葉を忘れない。
「日本からの成功事例を出して、今くすぶっている人に、僕らにもできるという想いを抱いてもらいたいです」
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama