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1966年に誕生したウルトラマン。「シュワッチ」で変身、スペシウム光線とか、つい私もポーズを取りたくなってしまう。現在、アニメで放映されるウルトラマンの制作現場のスタッフのお話である。
株式会社 円谷プロダクション マーケティング本部IP推進部 麻生智義さん(29)。円谷プロでは3年目だが、アニメ制作に携わって7年になる。麻生さんが主に携わっているのは、『SSSS.GRIDMAN(グリッドマン)』、ウルトラ怪獣をモチーフにした幼児向けの『かいじゅうステップ ワンダバダ』等、アニメ作品を担当。彼自身、円谷プロの作品のディープなファンを自認する。
あこがれの実写の迫力も伝えたい
ウルトラマンもグリッドマンも、もともとは実写で、アニメのファンもさることながら、着ぐるみのスーツで格闘するキャラクターを愛するファンにも支えられてきた。現在はアニメを制作するが、「僕も実写にはあこがれがあります」アニメのファンにも、実写の迫力を知ってもらいたい。実写のウルトラマンとグリッドマンを登場させるのはどうだろうか。アニメのグリッドマン制作のプロデューサーに名を連ねる彼は、企画の提案ができる。
麻生はそんな思いを特撮雑誌の編集長に相談すると、「面白いね」と賛同を得た。アニメを参考に実写用のスーツを作り、ウルトラマンとグリッドマンが並んで肩を組む写真が、特撮雑誌にグラビアを飾ると大いに反響があった。イベントに実写用のスーツを着たウルトラマンと、グリッドマンが登場すると、「オ~!!」とファンから歓声が上がる。写真撮影も盛り上がった。これも自分が円谷プロのファンだから、考えられたことだと彼は思っている。
――プロデューサーの大切な仕事は何ですか。
「人と人をつなぐことですね。この監督とこの脚本の巡り合わせによって、あるいはこの会社とこの会社が組むことによって、すごい作品ができるかもしれません。調整もプロデューサーの大きな仕事です」と、彼は調整の例を挙げる。
力添えの意見も大切な仕事
例えば、アニメーション制作の会社は、「人間のドラマを描きたい。登場するキャラクターの数を絞り、じっくり描いていきたい」という思いを持っている。一方、グッズや玩具の製造・販売の会社は「たくさん商品を出したい。キャラを減らすのはいかがなものか」と考える傾向にある。間に入ってバランスを取るのもプロデューサーの仕事だ。例えば、
「キャラの数が減りますけど、出す武器の数を増やすのはどうでしょう。一人のキャラが5つの武器を持つとか」武器を増やせば、関連の商品数を増やすことができるという配慮だ。
アニメの制作には、大勢のスタッフや会社が絡んでいることは前回で触れた。プロデューサーは制作の全体に目を配り、時にはクリエーターに意見をして、より良い作品にしていく力添えをするのも大切な仕事である。例えばキャラクターの設定。
「グリッドマンに出てくる、斜に構えたキャラクターがいるんです。そのキャラがゲーム化する中で、アニメよりもおしゃべりになっている。“これって、ちょっと違うんじゃないですか”と、担当者に修正を提案したり」
新型コロナウィルスが席巻する以前は、お酒を介してスタッフと語り明かすことも、多かったようだ。「貯金は大事にしろよ」という麻生の後輩へのアドバイスは、飲み代に困るようでは仕事に差し障ると言いたげだ。
「命がけで作っているんだ!」
――制作サイドの人と、意見が白熱することもあるでしょう。
「ある作品で、監督に宣伝はこんな感じのビジュアルでやりたいと提案したんですが…」
例えば、彼はメインキャラクターにニコニコしたポーズを取らせたかった。だが、監督はメインキャラクターの毅然とした姿を出したいと。話は平行線をたどり煮詰まった。すると、監督は麻生の視線を鋭くとらえ、「こっちは命がけで作っているんだ!」と言い放った。
「僕がモノを作れるわけではないので。作品を作る方々の背負っているものを、今更ながら感じたといいますか。監督もアニメ制作のクリエーターも、僕以上に円谷プロのキャラクターに愛を持っていることが伝わってきました」
観る人にどんなメッセージを届けたいのか。監督の話をよく聞き、麻生が納得する形で監督の考えを取り入れた。結果、宣伝用のビジュアルは評価をもらうことができた。自分の考えが至らなかったと彼は振り返る。
「かいじゅうステップとグリッドマンの制作スタッフがリリースする新しいアニメ作品を成功させたいというのが当面の目標です」
幼児向けにNHKの5分番組として放映されているアニメ『かいじゅうステップ ワンダバダ』は、大人が見ても、心に残るものがあるのではないか。アンパンマンやきかんしゃトーマスのように、大ヒットするポテンシャルを持っていると、彼は確信している。
また、グリッドマンのスタッフが制作中のアニメ『SSSS.DYNAZENON』を成功させたい。そもそも見てくれる人が少ないと、賛否も起きない。いろんな人に見てもらえるよう、インスタグラムやツィッター等、SNSを駆使して、円谷プロの作品の情報発信は欠かさない。
「クリエーターが作った作品に僕が力添えして、多くの人に届けたい。アニメ制作に関わっている人たちに、より多くお金を稼いで還元したい、それが僕の仕事ですから」
『SSSS.DYNAZENON』
©円谷プロ ©2021 TRIGGER・雨宮哲/「DYNAZENON」製作委員会
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama