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「リーダーはつらいよ」シリーズ、中間管理職たるもの、数字へのこだわりは言うまでもなく、それに勝るとも劣らないのが、部下の育成である。コロナ禍に働き方改革等、部下への指示もためらいがちな中間管理職。今回紹介する管理職も内心、歯がゆさを抱いているのが感じ取れた。
シリーズ第23回 株式会社スクウェア・エニックス 第三開発事業本部 シニア・マネージャー ファイナルファンタジーXIVリードプロジェクトマネージャー 松澤祥一さん(41)。
ファイナルファンタジーシリーズの14作目。オンラインゲームの「ファイナルファンタジーXIV」(以下・FFXIV)は、全世界累計プレイヤー数2000万人以上、会社を支える大きな屋台骨だ。松澤さんは主に継続的にアップデートされるFFXIVの開発の進行管理と、宣伝・マーケティングチームのマネージメント。直属の部下は約20名。主にモバイル事業を担当した前部署では、自分でアクションを起こすことの重要性を経験し、今のFFXIV関連のポストでは、ビジネスの収支にも深く係わっている。
自分にできないことができるスタッフ
後編はスタッフの話からはじまる。
――上司として、一目置く部下もいるでしょう。
例えば広告に関して。Googleが広告のロジックやAIを発展させたことで、あるタイミングからアドネットワークは、Googleの一強になってきたことは周知の事実だ。そこをよく熟知しているスタッフがいる。
「今の広告の主力はデジタルに移りつつあります。デジタル広告はアップデートが早い。主力のFFXIVを新しい人に知ってもらうためにお金を使い、検索の上位に出す工夫をしたり。一度公式サイトの情報を見に来てくれた人や、他のゲームサービスに触っている人へのアプローチ。“無料でお試しできます”と効果的にアピールしてお得感を出したり。
オンラインだけど、他の人と過度に交わらなくて遊べるとか。常にユーザーを見てネットの広告を最適化していく。そのことに長けているスタッフがいます。この領域はこのスタッフに任せられるというのは、心強いですね」
この会社では人を採用することに関して、同じゲーム業界にいたかどうかは、意識しないという。例えば松澤の部下に一人は、金融系の会社から転職した部下もいる。前職では金融システムに精通していて、技術的にITについて理解度が高い。
例えば、FFXIVはオンラインゲームなので、ユーザーが増えればサーバーも設備投資をして増強していかなくてはならない。今後どれだけ増えるか、技術者が計算をして適正値を出し、導入するサーバーを選択していくが、「サーバーが落ちるのが怖いです。現在のアクセス数の推移を見た時、このサーバーが適切な根拠は?」「数字を見てください。今後の伸びを考慮しても十分対応できる、落ちることはありません」とか何とか。エンジニアとシステムの調整に関して、踏み込んだ話ができるスタッフがいることも心強い。
つながりのなかったところに、コネクションを作る
――宣伝のチームも、松澤さんが見ていますね。
「はい、FFXIVは一定のコアなゲームプレイヤーには知れ渡っています。これからはFFXIVに興味を持ち、参加するプレイヤーをどこまで広げていくかが重要です」
彼と宣伝のスタッフの話し合いは、こんな感じで進行したに違いない。
「コアな層からカジュアルな層に広げていくのは難しいですよ」
「今までつながりがなかったところと、コネクションを作っていくことに、意味があると思うんだ」
松澤はゲームの楽しさを確認するかのように、こう強調する。
「FFXIVはみんなで協力しないと、敵を倒せないゲーム設定になっている。力を合わせて敵を倒した時の成功体験っていうか喜びは、ゲームもリアルも年齢も関係ないと思うんだ」
そんな話し合いから宣伝担当のスタッフは、例えば日刊紙への広告の出稿を提案するスタッフの声もあった。リアルとゲームはつながること。ゲームの中で仲良くなり、リアルな友達が作れること。オンラインゲームのコミュニティーの広がりに焦点を当てたり。一見、ゲームプレイヤーとはまったく質を異にする中高年のサラリーマン層に向けて、いろいろな発信が考えられる。
スタッフには経験の機会を作りたい
部下を育てようとする時、自らの成功体験を踏襲しようとするのは、無理からぬことだ。前の部署では、ゼロベースからいくつかの事業を立ち上げた。特にモバイルゲームの事業では成功例もあったが、赤字事業を担当した時の切迫さや、失敗した案件から得たことも多かった。
「いろんな体験を通して、自分の限界値というか、どこまでなら踏ん張れるかもわかりました。夜中の3時に出来上がった資料を前に、『よし、今からプレゼンの予行練習だ!』と、上司が付き合ってくれる、僕にはそんな体験がありますが、今は社会的にも会社も、スタッフにそんな無理をさせることはできません」
――しかし、松澤さん、FFXIVは十分収益が上がっています。傍目に見て、ことさら無理を強いる必要は、感じないのですが。
「僕はね、スタッフに経験する機会を作ってあげられないことが悩ましいんですよ」
経験することで、自分の中に蓄積ができる。例えば、転職や体調不良で担当者が不在になるケースがあったら、積極的に人の仕事を引き受け、自分の領域からはみ出したことを体験する。もう一歩の頑張りが自分を伸ばすことにつながるのではないか。
あたかもキャップをするように、自分の仕事はこの範囲と割り切っているかのようなスタッフも、目に付くと彼は言う。
「会社にとって本当に大事なのは数字じゃない。作品のタイトルが面白いと思ってもらえるかどうか。うちが制作するゲームが面白いと思ってもらえるかどうかです」
経験による蓄積が、イメージの飛躍につながる。“イマジネーションこそゲーム制作会社の命”彼の言葉を私はそう受け取った。
松澤祥一、41歳。妻と小学生の娘がいる。先日、娘が手書きでゲーム形式の肩たたき券を作ってくれた。「ゲーム制作屋の娘だな」と、思わず口元がほころんだ。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama