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新型コロナウイルスによって問われる新しいオフィスの在り方

2020.07.01

ビジネスパーソンは仕事場に通勤し、そこで働く--こんな常識が唯一無二の選択肢でないことを突きつけた今回のコロナ禍。そうしたなかで米不動産大手C&W社から提唱された「6フィート・オフィス」は、働き手を起点にオフィスプランを考ることをビルオーナー、経営者、マネジメントに突きつける。同社担当者に「6フィート・オフィス」の背景や狙い、今後の展望など取材した。

 緊急事態宣言が解除されてから約1か月。オフィスなどの仕事場にも新しい風景が日常化しつつあるだろうか。

 こうしたなかで、@DIMEでは米不動産大手のクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(C&W)が提唱した「6フィート・オフィス」を紹介した。

【関連記事】
Withコロナ時代に安心して働ける職場とは?ウェルビーイング視点で取り組みが始まった「6フィート・オフィス」

簡単に紹介すると、以下の6つのテーゼを掲げている。

1.職場はあなたを歓迎しています。しかし常に責任を意識しましょう。
2.ルールを守り、誘導サインに従いましょう
3.お互いに6フィート(約1.82メートル)の距離を保ち、安全を確保しましょう
4.いつでも、どこでも「時計回り」にオフィスを歩きましょう
5.指示に従って会議室を使用しましょう
6.デスクパッドを毎日交換し、清潔なデスクを保ちましょう

 どれも、言われてみれば当たり前のようなこと。ただし、そのポイントは従業員が安心して働ける職場を提供する視点をビルオーナー、経営者、総務などオフィスの管理部門などが備えることだとC&W日本法人の鈴木英晃氏は話す。

「弊社グループには、中国の大手上場不動産デベロッパーである万科企業との合弁会社、万科サービス|クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドがあります。同社は中国が都市封鎖を解除する際、約100万人、約1万企業の職場復帰支援を行ないました。そのときに集まった知見や経験は300ページを超えるマニュアルになりました。それを34ページの要約版として公開したものが『業務再開の手引き』というもので、そのなかで6フィート・オフィスを紹介しています。

 今回のコロナ禍で最も意識を変えなければいけないのは、働く方々が安心して職場に戻ってくるためには、どうすれば良いかという視点を持つことです。とはいえ、どうすれば、そうした新しい視点を持つことができるか。いちいちチェックリストを挙げていくのは大変です。そこで、『私たちは、6フィート・オフィスを実施しています』『御社では、6フィート・オフィスに取り組んでいますか?』と、6フィート・オフィスを固有名詞化することで、意識改革を促したい。そういう思いで、このプロジェクトに取り組んでいます」(C&W 日本法人 リサーチ・ディレクター鈴木英晃氏)

↑C&W 日本法人 リサーチ・ディレクター鈴木英晃氏

 会社が、業績が下がったり休業状態では、お給料がもらえなくなるかもしれない。しかし、日本のオフィスの多くはコロナ以前のままで密集状態。しかも、アルコール消毒液など除菌などの対策はされていないし、そもそもマスクをしないで大声でしゃべる人もいる。なかには緊急事態宣言解除後にも社内で感染者が出たり、体調を悪くしている人が出社しているなどなど。こうした不安を抱えて職場に通わざるを得ない、ビジネスパーソンは少なくないだろう。

 そうした懸念を軽減し、安心して業務に集中できる職場を用意する意思表示を会社やマネジメントスタッフが明示的に行なう必要がある。6フィート・オフィスがどのようなものかは、別の記事でリポートしているのでご参照いただきたいが、ポイントは従来のオフィスの使い方を工夫することで、働き手の健康への気配りをしているところ。あくまでも応急措置的なものであり、コンセプトそのものもブラッシュアップされていくほか、中・長期的には別の視点も必要になると鈴木氏は話す。

「他国と比較すると、日本の職場環境は、『人を入れておく箱』の役割が多いと言えます。一方、海外では『アクティビティ・ベースド・ワークプレイス』という考え方が浸透し始めていて、オフィスには何を用意すべきか、どんな風に使ってもらうかが意識されています。

 今回の『6フィート・オフィス』は、緊急事態宣言後に職場を再起動させるための、再開の手引きというものですが、中・長期的にはオフィスの在り方を根本的に考える時期に来ていると思います」(前出・鈴木氏)

 アクティビティ・ベースド・ワークプレイス(Activity Based Workplace)とは、階層、組織、チームなどのフレームに基づいてオフィスプランを考えるのではなく、個々人の働き手を起点にして、どんな活動(Activity)に、どんな機能が必要かが考えられたオフィスのスタイルのこと。オフィス内のどこでも自由に働ける点では、フリーアドレスにも似ているが、自宅やサテライトオフィスなど、従来のオフィスも働く場所(Workplace)として想定していることが大きく違う。

 人それぞれに差はあるが、今回のコロナ禍では、必ずしも通勤ラッシュに耐えながらオフィスに通わなくても仕事ができることがわかった。もちろん、家族の世話を気にせず、働くスペースや機器などの環境が整い、チームのメンバーとコミュニケーションしながら仕事ができるというオフィスの役割は変わらない。が、それだけが働き方のスタイルではないことは可視化されてしまった。オフィスに行って働くことだけが唯一無二の選択肢でないことが明らかになったインパクトは計り知れないのではないか。

日本のオフィスは会議室が多い。今後は、プロのマネジメントが求められる

 そもそもビジネスパーソンは、オフィスにどんな役割を求めているのだろう。鈴木氏は、「ライブラリー」「コラボレーション」「アメニティ」が主なものではないか、と分析する。

「そもそも、なぜオフィスが必要なのか、そして、なぜオフィスに行く必要があるのか、オフィスに求める役割とは何か。今回のコロナ禍を機に、こうしたことが考えられるようになることを期待しています。

 私はオフィスに求められるものは、次の3つに大別されると思います。ひとつ目は、集中する場所として。そういう人には、『ライブラリー』のように静かに作業ができるスペースが求められるでしょう。直接会ってビジネスの機会やアイデアを得たい方には『コラボレーション』の機能が求められます。これが2つ目です。最後に、ただ普通に(ICT環境や息抜きなどができる)『アメニティ』が欲しいならば、従来のオフィスでも十分かもしれません。これをどうミックスさせるのか。このような発想が必要になってくると思います」

 世界60か国に400拠点を持つC&W社は、歴史、文化、民族、宗教など、さまざまな背景で異なるオフィスプランを提案するビジネスをしている。そうした知見から、日本のオフィスの特徴や傾向などの定量的なデータも分析している。

 たとえば、日本の一人あたりのオフィス使用面積は外資系企業が約20㎡(6坪弱)であるのに対し、日系企業のそれは約13㎡(4坪弱)なのだとか。ただし、これには受付や社内通路などの共有エリアを含むので、一人に割り当てられるワークステーションごとの面積は、約10㎡(3坪強)と言われている(出典は、一般社団法人 日本ビルヂング協会連合会)。こうした実情をもとに、今後はオフィス内のソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)のためにオフィス拠点規模を15~20%拡大する必要について議論したリポートも出している(参考記事)。

 また、C&W日本法人 オキュパイヤー・サービスCOOのオデュッセウス・マルケジニス氏は「日本のオフィスは、会議室が多い」ことも指摘する。
「日系企業が会議室で行なうようなミーティングは、海外ではウェブミーティングなどのツールを使います。会議に参加出来ない人がいると、その人への情報共有が大変ですから。一方、日本では、会議室を使ったミーティングを好む傾向があります」

 オデュッセウス氏はオフィスのスタイルは、企業の文化が色濃く反映すると考える。

「コラボレーションスペースは、いままではどうも日本人好みではないと見られてきました。これは外資系でも起きるのですが、職場に日本人が多いと、広々としたコラボレーションスペースを作っても、ただ丸テーブルがあるエリアというだけで上手に使われないことも珍しくありません。一般的に、欧米の企業では、デスクスペースの0.4~0.5倍のコラボレーションスペースを作りますが、同じ割合を日本のオフィスに導入すると、必ずしも期待していたように機能するわけではありませんでした。

 とはいえ、今回のコロナ禍で会社で同僚たちと雑談をすることの大切さが見直されると思います。今後、コラボレーションスペースの活用法も変わっていくかもしれません」

C&W日本法人 COOのオデュッセウス・マルケジニス氏

 この点は、鈴木氏も次のように補足する。

「オフィスは、同僚やチームで集まって、雑談を交えながらコラボレーションする場として見直される機運があると思います。いま弊社では、勤務時間内に仕事の話はまったくせず、1時間雑談だけする時間を設けています。

 よく考えてみると、オフィスにいる間に、ちょっとした立ち話をしたり、雑談をするなかで生まれてくるビジネスオポチュニティ(仕事の好機)というのがある。テレワークをするようになって、ウェブミーティングなどが活用され始めましたが、やはりフェイス・ツー・フェイスに敵うコミュニケーションはいまのところは見当たりません。そういうときにこそ、クリエイティビティが刺激されるところはありますので、今後は、経営者やマネージャーが、積極的に雑談を生み出すようなきっかけを作る必要はあるでしょう」

C&Wが提案するコラボレーションスペース。テーブルと椅子が用意されているが、ガラスで区切られているため、通路を取った人からは誰と誰が話をしているかがわかる。

コラボレーションスペースとアメニティエリアが隣接したプラン。ここでは現在、それぞれの席はソーシャルディスタンスが確保されるように貼り紙がされている

 さらに鈴木氏は、オフィスの在り方が考えられるようになると、マネジメントは、どうあるべきかという議論も自然と沸いてくるという。

「日本では仕事で成果を上げた人が、論功行賞的に管理職に就きますが、現場で成績を上げるのと、チームのメンバーの心身をコンディションしながら組織を成長に導くマネジメントの能力は、まったく別です。とくに、今後はオフィスなどの物理的空間だけでなく、ビデオチャットなどを使った仮想的空間もワークプレイスに入ってくる。それらを適宜使い分け、チームの力を引き出せる本当の意味でのマネージャーが求められるようになるでしょう」

 経済学者の野口悠紀雄氏は、日本のビジネスパースンはオフィスに「いる」ことが重視され、そうした「いるか族」が、生産性向上のボトルネックになってきた分析する。上司が「おい」と呼んだ時に「はい」と答えるような働き方はポストコロナ時代には、さすがに通用しない。

 そして、働き手が雇用主の所有物や財産であるかのようなマネジメントも見直しを迫られるだろう。安心・安全に働ける職場を提供しようとする提案は、そうした本質的な議論を誘発することを目指しているようだ。

取材・文/橋本 保

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