中間管理職の方々の奮闘を描くこのシリーズ、新型コロナウィルス対策で各企業の課長たちはご苦労されていることであろう。今回紹介するリーダーも新型コロナウィルスの影響で、仕事の変更を余儀なくされている。この連載を通して、中間管理職の方の責任感の強さ、部下を育てようとする熱い思いをヒシヒシと感じてきた。この時期、ニッポンの課長の皆さんにエールを贈る、そんな思いを込めて。
シリーズ第24回 寺田倉庫株式会社 不動産事業グループサブリーダー兼エリアマネジメントチームリーダー 城田明洋さん(39)。寺田倉庫は東京都臨海部に本社を置く倉庫会社。美術品、映像・音楽媒体メディア、ワイン等デリケートな品の保存管理を得意とする。一方で、本拠地の天王州アイル地区活性化にも注力し、イベントスペース、リハーサルスタジオを運営、ギャラリー等を誘致。近隣企業と結成した社団法人と行政とが一体になり、年4回開催するフェス等、天王州エリアの価値向上のための活動が城田さんのグループの大きな仕事だ。
フェスの目的は天王洲の価値向上
「高校、大学と剣道部で部活動はものすごく厳しかったですね。警察官になって剣道を続ける道も考えましたが、営業職に興味がありまして」彼は大学卒業後、神奈川県内のハウスメーカーに就職。前職ではけっこう活躍し、社長賞も獲得した。
「僕は人なつこいですから(笑)、お客さんに気に入られようと、お客さんの元に通ったりしたのが、成果につながった気がします」
住宅より規模の大きなものを扱うには、法人営業だと07年に寺田倉庫に転職をした。
入社当時の配属は不動産事業部。地権者に主に倉庫を建設してもらい、自社で借り上げ物流業者等の顧客に貸す、サブリースが主な仕事だ。横浜支店を経て、天王州の本社に戻ったのは5年前でなる。
天王洲に集約される寺田倉庫の物件の面積は数万坪。倉庫のみならず、オフィス、商業施設などを保有する。天王洲アイルの一番の営業ポイントは羽田空港に近いこと。オフィスが入る商業複合ビル等が立ち並ぶが、土日はコンビニも店を閉めるほど、街の活気はイマイチだった。
そこで寺田倉庫は人が集まる魅力的な街づくりをテーマに、運河を中心とした天王洲アイルの価値向上に取り組んでいる。その目玉が天王洲キャナルフェスで、年に4回開かれる地域フェスティバルだ。近隣企業で組織した一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会が主催し、品川区などが後援するこのイベントは、天王洲運河沿いに整備されたボードウォークという公園を中心に開催される。
フェスの開催等で、天王洲エリアの価値向上につながれば、ここに本拠地を置く寺田倉庫の物件資産の価値も、おのずと向上するわけである。
いきなりフェスの実行委員長に
「城田くん、キミが実行委員長だ」彼が会社からそう告げられたのは、横浜支店から天王洲の本社に戻って間がない2016年。最初の天王洲キャナルフェスの時であった。
フェスの実行委員長といっても、不動産しかやったことがない自分に、果たして務まるのだろうか……。
企画を考える前に、フェスが成立するのか、不安は募ったがやらなければならない。今はチームのメンバーや応援の人も含め、15人ほどで準備に当たるが、当時はフェスに関わる部下は一人。主催する協会や行政との連絡役をはじめ、フェス前日は2人でテントを立てて、机を配置してノボリを立てて、会場作りに追われた。
「フェスって何ですか。僕は不動産の会社に入ったんです。他の人が手伝ってくれないなら、僕はこれ以上できません」そんな部下に、以前の城田だったら剣道で培った体育会系のノリで、「ガタガタ言わずにやるんだ!」くらいのことは言っただろう。だが横浜支店時代の上司に、「ちょっと言い過ぎだよ」と、部下への厳しい口調をたしなめられた。
自分の熱い思いをだけを伝えようとしても、後輩は聞くわけがない。リーダーたるもの、部下に歩み寄り、話しかけていかなくてはという自覚が芽生えている。「キミに止められたら、俺は困るんだよ」部下が不満を口にする気持ちがわかった城田は、そんな言葉を何度も口にして、頼りにしていることを部下に伝えた。
台船を運河に浮かべてパフォーマンス
年4回開催される天王洲キャナルフェスでは、これまで野外映画祭、船上ライブ、船を使ったクルーズ等、様々な企画を実行してきた。フェスは回数を重ね、今では金、土、日の3日間で、延べ1万5000人ほどが参加する。最初からフェスに関わってきたことに、城田のプライドを抱いている。
現在、彼の部下は14名。部署は企画からフェスに携わる天王洲チーム、主に倉庫の空室営業や管理を行うリーシングチーム、エリアマネジメントチームと3つに分かれている。
フェスの準備や運営はグループ全員でサポートするが、フェスの企画から担当するのは天王洲チームだ。イベントの実現には、関係者への根回しが必要だ。時には当日、不測の事態も発生する。
部下の30代の天王洲チームの女性は昨年10月、フェスと同じ時期に催されたイベントのライブパフォーマンスを担当した。運河に浮かべた2隻の台船の上の特設ステージで、太鼓等を演奏する演目だ。彼女はイベントを主催する協会の理事や、関係する団体の事務局の人たちと打ち合わせ、了解を得ながら企画の実現に取り組んだ。
ところが当日の朝、会場のボードウォークに設置されたテントが、演目の邪魔になるという問題が発生した。
「ここにテントがあったら、台船の上のパフォーマンスが観客に見えにくいよ」という関係者の要望に、上司である城田もそう思った。テントの設置は何かの行き違いだった。
「テントはどかしたほうがいいって、事前に言っていたのに」すでにテントの機材を組んだ舞台監督は、担当の女性のお願いに渋い顔だ。
「そこを何とかお願いします!」間に入った担当の女性は、目に涙を浮かべ頼み込んだ。共に仕事をする中で舞台監督も、担当者の頑固で素直な性格をわかっていたのだろう。現場の人たちを説得してくれ、テントを撤去することができた。
この女性部下、涙を浮かべ必死に頼み込む素直なところは、実にいい点だ。頑固なところも好感が持てる。だがその性格からか、怒りや気分の悪さがすぐ顔に出てしまう。そこがいささか難点かと、上司の城田は感じている。
天王洲キャナルフェスも新型コロナの対策で、春は中止となった。城田たちは夏の開催に向けて準備中である。彼らのチームにエールを送る意味でも、フェスのことを伝える。明日公開の後編はフェスのエピソードの続きからだ。フェスは会社にとってどんな意味を持つのか。また本業の一つであるリーシングについても詳しく。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama