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【リーダーはつらいよ】「部下には勝てるストーリーを考えてロジカルに提案できるようになってほしい」アクア・中川省吾さん

2020.04.08

日々現場で奮闘する中間管理職のリーダーたちは現場で何を考え、どんな術を講じているのか。今回は転職を2度経験した管理職を紹介する。

前職の約10年間では中間管理職の経験が長かった。中間管理職のベテランである。上司の意向を実現し、部下の育成も担う。社内で愚痴は言えず、孤立しがちな課長さんだが、どんな術を用いてその職をまっとうしているのだろうか。

シリーズ第22回、アクア株式会社 業務用洗濯機事業本部 事業戦略グループ シニアマネージャー 中川省吾さん(41)。アクアの親会社は中国の大手総合家電メーカーのハイアール。アクアは旧三洋電機から継承した洗濯機事業と、冷蔵庫事業を中心に日本市場で展開する。中川さんのチームは、2017年下期にスタートしたコインランドリー機器の海外展開の事業戦略・海外営業を担っている。

プロマネと海外経験がセールスポイント

関西出身の中川は、これまで関西の企業に勤務してきた。今のオフィスも新大阪にある。旧三洋電機の時代から国内のコインランドリー等、業務用洗濯機に強みを発揮し、現在アクアの業務用洗濯機は国内シェアの約70%を占めている。近い将来、国内市場がピークに達した時、必然的に販路を海外に求めていくことになる。アクアが海外に打って出るタイミングで彼は入社した。2018年4月のことだ。

「元々は大阪の商社に就職したんです。商社はメーカーが作ったものを買って売る。お客さんからクレームがあっても、“メーカーさんよろしく”という感じです。もっとみんなと一緒に作り上げる仕事がしたい、そんな思いがありました」

30歳の頃に関西の電機メーカーに転職。前職のメーカーは家電製品を安価で大量生産することに優れていて、主にOEMで国内外にAV機器等を供給している。

前職の電機メーカーには10年間ほど籍を置いた。売り上げのほとんどは海外、特にアメリカだった。後半の5年間はプリンター事業を担当し、プロジェクトマネージャー(プロマネ)の仕事に携わった。プロマネは開発プロジェクトをまとめる仕事だ。例えば、北米の大手通販会社に営業をかけ交渉を重ねて、合意を取り付け、商品を製作し納品する。プロマネはそのすべてを取り仕切る。

前職の会社がテレビに重点を置く方向になって、プリンター事業は縮小となり、区切りをつけようと中川は転職を決めた。

「前職はプロマネとして事業計画を作っていたので、事業の収支を見ることができます。海外での経験が活かせます」そんなアピールが、適任と判断されたのだろう。今のポストに着任した。

「中川さん、なにビビってるんですか」

部下は5名。中国人の若手の女性部下はやり手である。仕事ができる。“私を通せばこんなに有利なビジネスができます”という感じで自分の価値をアピールし、商談を進めていくタイプだ。 

例えば中国ではコインランドリーの普及はこれからだ。通常は1店舗で5〜6台を納入するが、中国の投資家の中から、その数倍のボリュームの引き合いが舞い込む。そんなお客に「今度、上司の中川と一緒に中国にお伺いして面談します」と、部下は中川をうまく使ってアピールする。実際に中川は部下と一緒に広東省の会社を訪れ、歓迎されたこともある。

中国人の部下は仕事が早い。日本のお客は段階を経て見積もりとなるが、中国人の投資家は“すぐに見積もり!”という感じだ。

「ちょっと待ってほしい」そんな時、中川は中国人の女性部下にアドバイスをする。「例えば100のオーダーが50になることもあります。“これだけオファーするから、この価格で”と、先方が言ってきてもまず、シュミレーションしながら収支を見て、うちの適正価格をしっかりと見極めて攻めましょう」時に“イケイケ”になる彼女には、そう言い含める。

「中川さん、なにビビっているんですか?」とは、彼女の言葉ではない。前職で同じようなシチュエーションの時、若手の部下が中川に向かって、そう口を尖らせた。

「ビビっているわけじゃないんです。勝てるストーリーを考えて、ロジカルに提案できるようになってほしいと、僕は言っているんです」と彼の口元が若干、ほころぶ。

日本特有の開発・製造工程に、ときには少しイラっと

中川より年上の2名の部下は、旧三洋電機からの技術者である。50代の部下はエンドユーザーとの交渉に立ち会い、「ドアの開きが良くない。わかりました。改良しましょう」とか、自分から提案をしてくれる。

40代の部下はキャシュレス化への対応機種や、次世代機の開発も担っている。業務用の洗濯機はサイズも大きいし、家電と異なる。2名の部下は業務用洗濯機について、専門的な技術を持つエキスパートだ。

業務用機種にもまた、日本特有の開発・製造の過程がある。まず新機種の企画のキックオフがあり、基本設計を煮詰めて設計構造を決定する。品質部門、工場、生産技術等、各部署がチームとして取り組めるよう、関係する部署の合意を得ながら開発に向かう。

そんな日本流の開発・製造システムは、海外メーカーから見れば不効率だと思われがちだ。だが、業務用洗濯機にしても、きちんとステップを踏む開発・製造方法が、シェアナンバーワンの実績につながっている。そこは彼も理解しているのだが。

わかっていても、中川も日本流のやり方が時としてもどかしく感じる時がある。「開発・製造の過程でショートカットすると、ほころびが出るよ」それは前職でも今でも、技術者に忠告されることだ。前職で中川は日本流のシステムをショートカットして、手痛い目にあっている。

明日公開の後編は、日本流の生産工程をところどころ省いたことが原因で、手痛い目にあったエピソードからはじまる。

東南アジアではコインランドリーのニーズが高まっているが、価格競争では海外メーカーにかなわない。付加価値のある業務用機種で勝負を挑んでいるのだが、その奮闘ぶりも後編では詳しく。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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