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【リーダーはつらいよ】「昔のやり方はこうやった、という言い方は絶対しません」ダスキン・梶原千左さん

2020.02.15

前編はこちら

今回は中間管理職の枠から少し外れるが、このシリーズ初の部長の登場だ。今の部署の立ち上げに参加し、売上約110億円に育てた女性の部長のお話である。

シリーズ第19回、株式会社ダスキン ケアサービス事業部本部 メリーメイド事業部 事業部長 梶原千左さん(59)。ダスキンメリーメイドとは掃除はもちろん、洗濯、食器洗い、買い物等、日常の家事全般を代行してくれるサービスだ。

来年定年を迎える梶原さんは、31年前にこの事業を立ち上げた時からのメンバーである。子育てをしながら忙しく働く中で、彼女が発想したライトな家事代行は、メリーメイド事業のエポックメーキングになった。直属の部下は28名。ほとんど女性だ。個性あふれるスタッフたちと彼女はどのようなスタンスで日々、接しているのだろうか。

共働きの夫婦にとってどんなに楽か

梶原が発想した従来のサービスよりライトな家事代行、「家事おてつだいサービス」の正式なスタートは2000年である。従来の家をピカピカにする「お掃除おまかせサービス」に比べ、値段は約半額のおよその9000円ほど。基本が2時間。「掃除機かけるだけでお金取るの?」そんなお客からの声には、「私たちのやるのは日常の掃除です。特別な掃除の機材も持ち込みません。お客様のお宅にあるお掃除道具を使わせていただきます」と、応えた。

サッと掃除をして洗濯機を回して、洗濯物を干して取り込んでアイロンがけして。余った時間に買い物でもしてくれたら、共働きの夫婦にとってどんなに楽か。子育てをしながら仕事をした梶原が発想したこのサービス、お客の依頼は今もほとんど掃除だが、事業部の年間売上高は約20年で倍以上、フランチャイズの加盟店数は約2.5倍に伸びた。

「まあまあ」

47都道府県にあるフランチャイズの約750の加盟店は大きく9ブロックに分かれ、17名のエリアマネージャーが担当の地域を統括する。エリアマネージャーは梶原の部下だがほとんどが女性だ。自分の経験と個性と実力で加盟店を動かしていく。事業部の中で最もやり甲斐がある仕事である。中には声が大きくて押しが強い。突っ込み好きで人情味にあふれ涙もろい、“大阪のおばちゃん”タイプもいる。

そんな部下と、加盟店のオーナーとのやり取りは例えば、

「料金体系、なんとかなりませんかね」
「本部に言うときます。それよりあなた、本部から指示されたこれとこれ、やってませんね。だから思うような利益が出ないんと違いますか?」

ヤバイ…、あのおばちゃんには、なんも言わんとこ…と、加盟店のオーナーの中には、時としてエリアマネージャーに脱帽する人もいるという。梶原の部下は50代のベテランと、30代20代の若手が多い。“大阪のおばちゃん”タイプに、若手も負けていないから、ミーティングがヒートアップする時もある。

「えー、でもこういう声も現場から上がってきてますしー!」 
「あんた、何言うてんの‼」とか、そんな時は梶原の出番だ。「まあまあ」と、ミーティングが終わった後に声がけして、「あんたの言うてることもわかるけどな、あの言い方はあかんわ」という感じで諭す。

長年仕事を共にしてきた50代の女性たちと梶原とは、戦友のようなものだ。「ほな、わかった」と、年配の部下たちも彼女の言うことならわかってくれる。

“イラチ”はダメ

サービス業はマニュアルの世界だ。「家事おてつだいサービス」も、分厚いマニュアルの冊子や、要点をまとめたガイドがあり、お客からの声は常にマニュアルに反映している。だが、「臨機応変さがサービスに繋がります」と、梶原は思っている。

例えば、ゴミはお客の部屋のゴミ置場に置くと決まっている。でも集合住宅のゴミ収集場まで、家事おてつだいサービスのスタッフが運ぶ時もある。だからと言って「マニュアルどおりにしなさい」と、加盟店を指導することを彼女はしない。

臨機応変さを大事にする梶原は“昔のやり方はこうやった”という言い方も、絶対しないようにしている。

部下はほとんど女性だが、男性社員も数名いる。加盟店の責任者もほとんど女性なので、「お兄ちゃんの言うことなら聞いてあげよか」という感じで得をしている面もあるが。女性とうまくやるコツを聞かれると梶原は、「全員、恋人だと思いなさい」と、若手の男性部下にアドバイスをしている。恋人ならマメに尽くせるはずだが、これはなかなか難しい。

“おばさん怖いです”みたいな人は、梶原の部署では生き残れない。離脱せず、彼女の部署で力を発揮するある中年男性の部下は、「うーん、そうねー、わかるよー」という感じで、ただひたすら女性たちの話を聞く。絶対に逆らわない。

「早く稟議書を見てください」「あの要望書どうなっていますか」等々の小言も、粛々とこなしていく。女性が求めているのは、聞いてもらいたいということで、どうするかは最終的に自分で決めるのだ。

そこへ行くと、上司である執行役員の男性は、梶原の思う通りにやらせてくれていい上司だが、関西弁でいうイラチなところがある。せっかちなのだ。話を聞いても途中で、「ああしたらええ、こうしたらええやん」となって、じっくりと女性の話を聞くタイプではない。彼女に対し“ここはお任せします”という感じだ。

2時間の家事代行サービスは時代のニーズを捉えた。共働きが当たり前になり「家事代行は家庭の必要経費や」と、思う夫婦が増えている。今や同業者も数多いが、このシステムを最初に考え事業化したのは梶原である。

「フロンティアですが地味やね。当時はネットも普及したなくて、チラシをまくことからはじめて――」

部長、梶原千左。これ以上の出世はないと言い切る。来年は定年退職だ。子供のことを思い、仕事を辞めようかと脳裏をよぎったこともあった。でも大丈夫、小学校の先生になった長男も大学生の長女も、寂しい思いをさせたことは何も覚えていない。定年後は今の部署で1〜2年仕事を続けて。そして、

「そういえば私、専業主婦をやったことがないんですよ、楽しみやわ」(笑)

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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